剣聖は完全に戦闘態勢だ。
剣を真っすぐに構えたその姿は、まったく隙が無い。
「まずは捕縛する。僕は殺しは好かないんでね。と言っても、加減は得意な方じゃないんだ。悪いが、骨の一本や二本は覚悟してもらうよ」
「俺の言い分は聞いてもらえない訳ですか」
「悪いね。君の言い分を聞いたところで、現状僕には何が正しいか判断できない。万が一犯人だった場合に逃がしてしまう方が問題だ。可能性が少しでもあるのなら、まずは騎士としての責務を全うする。その上で騎士団でじっくり尋問を受けると良い。無実ならそこで弁明してくれ」
「まあ、そうなっちゃいますよね……」
剣聖ヴァレンタインは爽やかに笑う。
「――まあ、お互い魔剣士だ。剣を交えれば見えることもあるかもしれない。つまり、戦うことはどの道避けられないということさ」
「……わかりました」
俺は覚悟を決める。
剣聖……明らかにこの人から出ているオーラは他の騎士とは比べ物にならない。
歳もせいぜい二十代という感じなのにこの雰囲気。相当の修羅場を潜り抜けてきたと見える。
『油断は禁物よ。本当に剣聖なのだとしたら恐らくかなりの手練れ。魔剣士として最上位に近い実力なのは間違いないわ。一瞬の隙も見逃せないわよ』
普段よりも真剣みのあるカスミの声が聞こえる。
「わかってる。本気で行く……!」
俺はカスミを構え直す。
「こい……!」
「じゃあこちらから行かせてもらうよ」
瞬間。剣聖はグンと地面を蹴ると一瞬にして俺の間合いへと入り込んでくる。
「ッ!」
速い……!
反射的に繰り出した刀が、剣聖の上段からの振り下ろしを何とか防ぐ。
くっ、弾けない……なんて剣圧!
「! ……へえ。剣士だけを狙う殺人鬼なだけはある」
ガチガチと剣と刀が震える。
魔術なしでこれか!
でも、カスミとの訓練で影の剣豪たちと斬り合った俺に反応できない速さではない!
「だから……違うって!」
俺はそのまま剣を何とか押し返し、反対に攻めに転じる。
「"三閃"!」
三つの剣閃が煌めく。
同時に三方向から斬りかかる不可避の剣技。
「興味深い技だ」
しかし、さすがは剣聖と言うべきか。
俺の太刀筋を見極め、"三閃"を剣で受けてみせる。
「まじか……!」
「驚いた……君、本当に子どもかい? 僕の初撃を防ぐだけでも魔術ナシならほぼ不可能だというのに。防ぐどころか反撃してくるとは」
「褒められてるのかな」
「あぁ。面白くなってきた」
「余裕ありますね……!」
それから、一進一退の攻防が続く。
俺の剣筋を見極め、剣聖は上手くいなしてくる。
刃が弾ける音が響く。
「ぐっ……!」
「ふッ!」
虚構の中で戦った数多の剣豪たち。
それに及ぶとまではいかないが、明らかにこの剣術には重みがあった。
一瞬でも隙を見せれば、一気に持っていかれる。
でも……剣術だけは……それだけは誰にも負ける訳にはいかない!
「うおおおお!!」
「――甘い」
俺の一瞬力んだ瞬間を見逃さず、剣聖は俺の手からカスミを弾き飛ばす。
「なっ!」
くそ、熱くなった……! 油断した!
「これで終いだ」
剣聖の一撃が降り注ぐ。
ただ上から下に振り下ろしているだけのはずが、ものすごい圧を感じる。
「くっ……!! まだだ!」
俺は咄嗟に雪羅を抜くと、何とかその一撃を受け止める。
雪羅はギシギシと、カスミの時とは比べ物にならないほどの悲鳴を上げる。
「そっちの刀も受け止めるか。いい刀だ」
「どうも……――"円舞"!」
自身の身体を軸に円を描き、相手を弾き飛ばす守りの剣技。
その威力に、剣聖は一気に後退する。
その隙に俺は弾き飛ばされたカスミを空中でキャッチする。
「ふぅ……あぶない……」
「振出しに戻るか」
剣聖は依然余裕の表情で俺を見る。
魔剣士だが、魔術を使っていない。その心の余裕か。こっちは結構いっぱいいっぱいだって言うのに。
『冷静になって、ホロウ。私の教えた剣術の基本を忘れないで。熱くならず、冷静に』
俺はカスミで頭をコンコンと軽く叩き、深く息を吐く。
「――悪い……負けられないと思ったらつい」
『ふふ、安心して。落ち着いたホロウに剣術で勝てる奴なんていないんだから。自信をもって。数多くの剣士たちを見てきた私が言うんだから間違いないわ』
「ありがとう」
『戦いを見てて改めて分かった。長年剣を振り続けたホロウの剣の技術、そして押し合いなら僅かにホロウの方が上。今拮抗してあたかも押されているように見えるのは実戦経験の差と心の余裕ね。向こうの方が対人での戦い方をわかっていると言うだけよ』
そう、あの落ち着きようだ。
相手を倒さなきゃという気負いもなく、平常心で戦っている。これが経験の差。
しかも、この戦いを楽しんでいる節がある。
でも身体は確かに反応出来ているんだ。
戦況だけで見れば、随所で弾き返せている俺の方が優位なはずだ。
冷静に、冷静に……。
不本意な戦い……濡れ衣ではあるけど、こんな剣に特化した魔術師と剣を交えられる機会はそうそうない。俺の成長に有効活用させてもらおう。
命のやり取りだけれど……このチャンスを無駄にしない。
「……空気が変わった。ここからが君の本気と言う訳か」
「俺は帰ります。無実の罪で捕まる訳にはいかない」
「なら、その剣で僕に証明してくれ」
「そのつもりだ――!」
俺と剣聖の剣が交差する。
剣を真っすぐに構えたその姿は、まったく隙が無い。
「まずは捕縛する。僕は殺しは好かないんでね。と言っても、加減は得意な方じゃないんだ。悪いが、骨の一本や二本は覚悟してもらうよ」
「俺の言い分は聞いてもらえない訳ですか」
「悪いね。君の言い分を聞いたところで、現状僕には何が正しいか判断できない。万が一犯人だった場合に逃がしてしまう方が問題だ。可能性が少しでもあるのなら、まずは騎士としての責務を全うする。その上で騎士団でじっくり尋問を受けると良い。無実ならそこで弁明してくれ」
「まあ、そうなっちゃいますよね……」
剣聖ヴァレンタインは爽やかに笑う。
「――まあ、お互い魔剣士だ。剣を交えれば見えることもあるかもしれない。つまり、戦うことはどの道避けられないということさ」
「……わかりました」
俺は覚悟を決める。
剣聖……明らかにこの人から出ているオーラは他の騎士とは比べ物にならない。
歳もせいぜい二十代という感じなのにこの雰囲気。相当の修羅場を潜り抜けてきたと見える。
『油断は禁物よ。本当に剣聖なのだとしたら恐らくかなりの手練れ。魔剣士として最上位に近い実力なのは間違いないわ。一瞬の隙も見逃せないわよ』
普段よりも真剣みのあるカスミの声が聞こえる。
「わかってる。本気で行く……!」
俺はカスミを構え直す。
「こい……!」
「じゃあこちらから行かせてもらうよ」
瞬間。剣聖はグンと地面を蹴ると一瞬にして俺の間合いへと入り込んでくる。
「ッ!」
速い……!
反射的に繰り出した刀が、剣聖の上段からの振り下ろしを何とか防ぐ。
くっ、弾けない……なんて剣圧!
「! ……へえ。剣士だけを狙う殺人鬼なだけはある」
ガチガチと剣と刀が震える。
魔術なしでこれか!
でも、カスミとの訓練で影の剣豪たちと斬り合った俺に反応できない速さではない!
「だから……違うって!」
俺はそのまま剣を何とか押し返し、反対に攻めに転じる。
「"三閃"!」
三つの剣閃が煌めく。
同時に三方向から斬りかかる不可避の剣技。
「興味深い技だ」
しかし、さすがは剣聖と言うべきか。
俺の太刀筋を見極め、"三閃"を剣で受けてみせる。
「まじか……!」
「驚いた……君、本当に子どもかい? 僕の初撃を防ぐだけでも魔術ナシならほぼ不可能だというのに。防ぐどころか反撃してくるとは」
「褒められてるのかな」
「あぁ。面白くなってきた」
「余裕ありますね……!」
それから、一進一退の攻防が続く。
俺の剣筋を見極め、剣聖は上手くいなしてくる。
刃が弾ける音が響く。
「ぐっ……!」
「ふッ!」
虚構の中で戦った数多の剣豪たち。
それに及ぶとまではいかないが、明らかにこの剣術には重みがあった。
一瞬でも隙を見せれば、一気に持っていかれる。
でも……剣術だけは……それだけは誰にも負ける訳にはいかない!
「うおおおお!!」
「――甘い」
俺の一瞬力んだ瞬間を見逃さず、剣聖は俺の手からカスミを弾き飛ばす。
「なっ!」
くそ、熱くなった……! 油断した!
「これで終いだ」
剣聖の一撃が降り注ぐ。
ただ上から下に振り下ろしているだけのはずが、ものすごい圧を感じる。
「くっ……!! まだだ!」
俺は咄嗟に雪羅を抜くと、何とかその一撃を受け止める。
雪羅はギシギシと、カスミの時とは比べ物にならないほどの悲鳴を上げる。
「そっちの刀も受け止めるか。いい刀だ」
「どうも……――"円舞"!」
自身の身体を軸に円を描き、相手を弾き飛ばす守りの剣技。
その威力に、剣聖は一気に後退する。
その隙に俺は弾き飛ばされたカスミを空中でキャッチする。
「ふぅ……あぶない……」
「振出しに戻るか」
剣聖は依然余裕の表情で俺を見る。
魔剣士だが、魔術を使っていない。その心の余裕か。こっちは結構いっぱいいっぱいだって言うのに。
『冷静になって、ホロウ。私の教えた剣術の基本を忘れないで。熱くならず、冷静に』
俺はカスミで頭をコンコンと軽く叩き、深く息を吐く。
「――悪い……負けられないと思ったらつい」
『ふふ、安心して。落ち着いたホロウに剣術で勝てる奴なんていないんだから。自信をもって。数多くの剣士たちを見てきた私が言うんだから間違いないわ』
「ありがとう」
『戦いを見てて改めて分かった。長年剣を振り続けたホロウの剣の技術、そして押し合いなら僅かにホロウの方が上。今拮抗してあたかも押されているように見えるのは実戦経験の差と心の余裕ね。向こうの方が対人での戦い方をわかっていると言うだけよ』
そう、あの落ち着きようだ。
相手を倒さなきゃという気負いもなく、平常心で戦っている。これが経験の差。
しかも、この戦いを楽しんでいる節がある。
でも身体は確かに反応出来ているんだ。
戦況だけで見れば、随所で弾き返せている俺の方が優位なはずだ。
冷静に、冷静に……。
不本意な戦い……濡れ衣ではあるけど、こんな剣に特化した魔術師と剣を交えられる機会はそうそうない。俺の成長に有効活用させてもらおう。
命のやり取りだけれど……このチャンスを無駄にしない。
「……空気が変わった。ここからが君の本気と言う訳か」
「俺は帰ります。無実の罪で捕まる訳にはいかない」
「なら、その剣で僕に証明してくれ」
「そのつもりだ――!」
俺と剣聖の剣が交差する。