「どれがいいかな」
「ん~」
俺とカスミは冒険者ギルドの掲示板の前で依頼の紙を見つめる。
冒険者活動開始から五日。
今のところ受けた依頼は角兎の駆除に薬草採取、墓地の清掃に迷子探し……。
お世辞にも冒険者! と言う感じの活動は出来ていない。
いやまあ、そもそも二人で生きていくために金策が必要で、ついでに修行出来ればラッキー程度の気持ちで冒険者を始めた訳で。その過程で人助けが出来れば最高だな、なんて思っていた訳だけど。
「とはいえ、やっぱりそろそろ歯ごたえのある依頼を受けたいよなあ……」
と俺は掲示板を見ながらポツリと呟く。
それに同調するように、隣のカスミをコクコクと首を縦に振る。
「そうだねえ。毎日訓練を続けているからホロウは強くなってるとは思うけど……実戦も必要よね」
「そうなんだよ。せめてもうちょい歯ごたえの……――お? おぉ!? これなんてどうだ?」
大きく区分けされた掲示板で、白階級の区域に貼られていた一枚の依頼書を取る。
カスミはそれを覗き込み、垂れ下がる髪を耳に掛ける。
「"ヘルハウンドの皮の採取"……へえ、ヘルハウンドね」
「そう! まあまあの強敵じゃないか?」
「そうね、サイクロプスよりは少し弱いくらいかしら。でも、多分試験の時のサイクロプスは野生じゃなかったからそこまでの脅威じゃなかっただろうし、野生のヘルハウンド複数体の相手となると試験より難易度は高めかも」
「いいね……! 魔物相手なら遠慮くなく本気出せる。じゃあこれで――――って駄目だ……」
俺は露骨に溜息をつく。
「どうしたの?」
「ここ……」
俺が指をさすと、カスミはもう一度ぐいと俺の手元の依頼書を覗き込む。
「"必須条件:赤階級以上"……ありゃ」
「やっぱそうですよねえ……。なんでこれが白階級のところに張ってあるんだよ!」
「前に取った人が赤じゃなくてそのまま白の方に貼っちゃったのかもね」
「くそぉ……地道に階級を上げろということか……」
カスミはポンポンと俺の肩を叩く。
「仕方ないわ、依頼者も振り分けるギルドの人も階級で実力を測るしかないし。流石にヘルハウンド複数体を白には任せられないという判断なんでしょ」
「そうだろうなあ。――仕方ない、雑用も人助けだ、頑張ろう!」
こうして俺とカスミは気持ちを新たに白階級任務に勤しんだ。
一日平均3任務以上をこなし、精力的にギルドへの貢献度を上げる。
雑用とはいえ、それでも人助けになることは変わりない。なんやかんや言いつつ、充実した駆け出し冒険者生活を満喫していた。
空いた時間で個人的に訓練を行い、着実に剣の修行を続ける。
――そうして二週間ほどが過ぎた頃。待ちに待った時が訪れた。
「――……はい! こちらが冒険者タグになります!」
キルルカさんから渡された、赤色の冒険者タグ。
俺はそれを受け取ると首に下げる。
「来た……!! 遂に!」
「やったね、ホロウ!」
カスミが嬉しそうに俺の腕をぐいぐいと引っ張る。
「赤階級昇格だ!」
念願かなって、とうとう赤階級への昇格。
ここから、一気に受けられる任務は増えていく。
「嬉しいなあ、あのホロウ君がもう赤階級なんて」
「ありがとうございます!」
「十四歳で赤階級なんて……まあ白は任務を続ければ自動で上がるからやる気の問題ではあるけれど、そもそも十四歳で冒険者っていうのが異例中の異例だからね。本当凄いわ」
「そ、そうですかね?」
「うんうん! がんばったね」
そう言って、キルルカさんは俺の頭に手を伸ばす。
おっ……頭撫で……。
不意の行動に俺は思わず赤面する。というか近い……!
「フンッ!」
と、俺の頭に乗っていたキルルカさんの手をカスミがぺしっと叩き落す。
「…………」
「…………」
二人の間に、何とも言えない沈黙が流れる。
「ど、どうしたカスミそんな……」
「見かけに騙されて篭絡されたらだめだよホロウ。所詮はギルド側の人間、ホロウが任務をこなせば利益になると思ってるだけなんだから!」
「そんなことないわよ、ホロウ君は私の弟みたいなものだからね、気になるのよ」
「どうだか」
とカスミは吐き捨てるようにフンと鼻を鳴らす。
「あらあら、カスミちゃん嫉妬かな? 安心しなさい、ホロウ君はまだ子供だしそんな変な気は――」
「ホロウは子供でも立派な冒険者よ! まったく、ホロウは凄いんだから! 知らないんだあ」
いや、なにこれ恥ずかしいんだが。
なんだこの状況……周りの目も何か恥ずかしいし……さっさと退散しよう……。
「じゃ、じゃあキルルカさん、僕たちはこれで……」
と、俺はカスミをグイっと掴む。
「あ、ちょっと!」
「また来てねホロウ君!」
キルルカさんは何事もなかったかのように営業スマイルで俺に手を振り見送る。
それに対してカスミはガルルっと何か言いたげに唸る。
まあさすがキルルカさんは大人って感じだな。余裕がある。
ちらっとカスミの顔を見ると、口をとがらせてつーんと不貞腐れている。
まったく、やっぱり出会ったころより何か幼くなってるよなあ、カスミ。本当に六百年も生きてたのかよ。というかこっちが素なのかな? 一応見た目も俺と同い年くらいだし……。……まあ刀なんだしそこら辺は人間の物とは比較できないかもだけど。
「……ホロウは子供じゃないし。立派な冒険者だし」
「はは、ありがとうなカスミ」
「というか頭撫でるとか……! ホロウも私の所有者なんだからデレデレしないでしっかりしてよね!」
「はいはい。それじゃあなんか甘いものでも食べに行くか」
その言葉に、カスミの顔がパーっと明るくなる。
「行く!」
単純だなあ。
こうして俺たちはささやかながら赤階級昇格祝いをしたのだった。
「ん~」
俺とカスミは冒険者ギルドの掲示板の前で依頼の紙を見つめる。
冒険者活動開始から五日。
今のところ受けた依頼は角兎の駆除に薬草採取、墓地の清掃に迷子探し……。
お世辞にも冒険者! と言う感じの活動は出来ていない。
いやまあ、そもそも二人で生きていくために金策が必要で、ついでに修行出来ればラッキー程度の気持ちで冒険者を始めた訳で。その過程で人助けが出来れば最高だな、なんて思っていた訳だけど。
「とはいえ、やっぱりそろそろ歯ごたえのある依頼を受けたいよなあ……」
と俺は掲示板を見ながらポツリと呟く。
それに同調するように、隣のカスミをコクコクと首を縦に振る。
「そうだねえ。毎日訓練を続けているからホロウは強くなってるとは思うけど……実戦も必要よね」
「そうなんだよ。せめてもうちょい歯ごたえの……――お? おぉ!? これなんてどうだ?」
大きく区分けされた掲示板で、白階級の区域に貼られていた一枚の依頼書を取る。
カスミはそれを覗き込み、垂れ下がる髪を耳に掛ける。
「"ヘルハウンドの皮の採取"……へえ、ヘルハウンドね」
「そう! まあまあの強敵じゃないか?」
「そうね、サイクロプスよりは少し弱いくらいかしら。でも、多分試験の時のサイクロプスは野生じゃなかったからそこまでの脅威じゃなかっただろうし、野生のヘルハウンド複数体の相手となると試験より難易度は高めかも」
「いいね……! 魔物相手なら遠慮くなく本気出せる。じゃあこれで――――って駄目だ……」
俺は露骨に溜息をつく。
「どうしたの?」
「ここ……」
俺が指をさすと、カスミはもう一度ぐいと俺の手元の依頼書を覗き込む。
「"必須条件:赤階級以上"……ありゃ」
「やっぱそうですよねえ……。なんでこれが白階級のところに張ってあるんだよ!」
「前に取った人が赤じゃなくてそのまま白の方に貼っちゃったのかもね」
「くそぉ……地道に階級を上げろということか……」
カスミはポンポンと俺の肩を叩く。
「仕方ないわ、依頼者も振り分けるギルドの人も階級で実力を測るしかないし。流石にヘルハウンド複数体を白には任せられないという判断なんでしょ」
「そうだろうなあ。――仕方ない、雑用も人助けだ、頑張ろう!」
こうして俺とカスミは気持ちを新たに白階級任務に勤しんだ。
一日平均3任務以上をこなし、精力的にギルドへの貢献度を上げる。
雑用とはいえ、それでも人助けになることは変わりない。なんやかんや言いつつ、充実した駆け出し冒険者生活を満喫していた。
空いた時間で個人的に訓練を行い、着実に剣の修行を続ける。
――そうして二週間ほどが過ぎた頃。待ちに待った時が訪れた。
「――……はい! こちらが冒険者タグになります!」
キルルカさんから渡された、赤色の冒険者タグ。
俺はそれを受け取ると首に下げる。
「来た……!! 遂に!」
「やったね、ホロウ!」
カスミが嬉しそうに俺の腕をぐいぐいと引っ張る。
「赤階級昇格だ!」
念願かなって、とうとう赤階級への昇格。
ここから、一気に受けられる任務は増えていく。
「嬉しいなあ、あのホロウ君がもう赤階級なんて」
「ありがとうございます!」
「十四歳で赤階級なんて……まあ白は任務を続ければ自動で上がるからやる気の問題ではあるけれど、そもそも十四歳で冒険者っていうのが異例中の異例だからね。本当凄いわ」
「そ、そうですかね?」
「うんうん! がんばったね」
そう言って、キルルカさんは俺の頭に手を伸ばす。
おっ……頭撫で……。
不意の行動に俺は思わず赤面する。というか近い……!
「フンッ!」
と、俺の頭に乗っていたキルルカさんの手をカスミがぺしっと叩き落す。
「…………」
「…………」
二人の間に、何とも言えない沈黙が流れる。
「ど、どうしたカスミそんな……」
「見かけに騙されて篭絡されたらだめだよホロウ。所詮はギルド側の人間、ホロウが任務をこなせば利益になると思ってるだけなんだから!」
「そんなことないわよ、ホロウ君は私の弟みたいなものだからね、気になるのよ」
「どうだか」
とカスミは吐き捨てるようにフンと鼻を鳴らす。
「あらあら、カスミちゃん嫉妬かな? 安心しなさい、ホロウ君はまだ子供だしそんな変な気は――」
「ホロウは子供でも立派な冒険者よ! まったく、ホロウは凄いんだから! 知らないんだあ」
いや、なにこれ恥ずかしいんだが。
なんだこの状況……周りの目も何か恥ずかしいし……さっさと退散しよう……。
「じゃ、じゃあキルルカさん、僕たちはこれで……」
と、俺はカスミをグイっと掴む。
「あ、ちょっと!」
「また来てねホロウ君!」
キルルカさんは何事もなかったかのように営業スマイルで俺に手を振り見送る。
それに対してカスミはガルルっと何か言いたげに唸る。
まあさすがキルルカさんは大人って感じだな。余裕がある。
ちらっとカスミの顔を見ると、口をとがらせてつーんと不貞腐れている。
まったく、やっぱり出会ったころより何か幼くなってるよなあ、カスミ。本当に六百年も生きてたのかよ。というかこっちが素なのかな? 一応見た目も俺と同い年くらいだし……。……まあ刀なんだしそこら辺は人間の物とは比較できないかもだけど。
「……ホロウは子供じゃないし。立派な冒険者だし」
「はは、ありがとうなカスミ」
「というか頭撫でるとか……! ホロウも私の所有者なんだからデレデレしないでしっかりしてよね!」
「はいはい。それじゃあなんか甘いものでも食べに行くか」
その言葉に、カスミの顔がパーっと明るくなる。
「行く!」
単純だなあ。
こうして俺たちはささやかながら赤階級昇格祝いをしたのだった。