波乱の二次試験が終わり、俺とセシリアは晴れて冒険者に合格することが出来た。
 苦い終わりだったが、これからの俺の生き方、戦い方を考える意味でも大きな出来事だった。

「――それじゃあ。改めておめでとう、ホロウ君!」

 キルルカさんは嬉しそうに俺の方を見て、パチパチと拍手する。

「あ、ありがとうございます」
「何照れてんのよ」

 隣のカスミが呆れ気味に溜息をつく。

「うんうん、一次試験の時はどうなることかと思ったけど、君の実力がよ~~くわかったわ。それじゃあこれが君の冒険者タグ。なくさない様にね」

 スッと差し出されたのは、白色の冒険者タグだ。
 あまり高価な物には見えないが、薄っすらと魔力の反応を感じる。

「魔術が付与されていてある程度の強度はあるけど、雑に扱うと壊れちゃうから気を付けてね。紛失、破損などでの再発行や修理はそこそこ値が張るから気を付けて」
「気を付けます」

 俺はそれを首からぶら下げ、そっと服の中にしまう。

「それじゃあ、冒険者について説明するわ。知ってるかもしれないけど一応ね。冒険者は基本的にギルドが仲介した様々な人からの依頼を受けて、それが達成できればお金をもらう。シンプルな仕事ね」

 俺が想像していた通りの冒険者像だ。

「試験でもあったように、依頼の多くは魔物の討伐よ。一般人の手に負えない魔物の討伐、魔物の蔓延る迷宮での採掘、護衛……基本的に戦うことがメインになるわ。試験は少し厳し目だったけれど、それくらいじゃないと駆け出し冒険者の死者が増えすぎて依頼達成率が低下して冒険者の信用はガタ落ちしてしまうし、一部の優秀な冒険者たちだけが利益を得る歪な構造になってしまうからね。ある程度の足切りは必要なのよ」
「なるほど。言わんとしてることはわかります」
「それでも、魔物と対峙してすぐに亡くなってしまう駆け出し冒険者は多いんだけどね……。試験と実戦って全然違うから。……まあ、ホロウ君は大丈夫でしょう! じゃあ次は――」 

 キルルカさんはボードを取り出す。
 そこには、何やら見慣れない図が書かれていた。

「これ。まず一番左、ここが君の等級。白等級冒険者ね。そして実績が増えていくと、赤、蒼、紫、虹、銀、金、白金……っという感じで上がっていくわ」

 確かカレンさん達が蒼階級……俺より二つ上って訳か。

「新人は一番下からのスタートだから、君は"白"ね。白でも、各都市の通行料の免除だったり、各種施設の利用は他の階級と同じだから安心してね」
「すごいですね」
「ふふ、教会が後ろ盾だから権限が強いのよ」
「なるほど」

 キルルカは再度ボードに視線を移す。

「――で、説明の続きね。基本的に昇級には試験はなくて、実績に依存するんだけど、蒼から紫に上がる時だけ昇級試験があるから気を付けて。君たち冒険者が現実的に目指すべき到達点はこの紫階級よ。紫になると周りからの認知度は爆上がりするわ」
「到達点ってことは、それより上は?」
「そこから上は選ばれし冒険者たちね。虹は大陸でもそう多くはないわ。この階級から冒険者には二つ名が与えられるの」

 ガイとかセシリアが言ってたやつか。

「それより下が一般冒険者なら、虹から上はネームド冒険者って訳。アルマ支部長何かがそうね。で、銀、金は国や都市を救うような英雄級の冒険者、そして白金は……これはもう名誉階級ね。過去の偉人なんかに与えられたりしてるわ。現存する冒険者がいるかどうかは私達職員じゃ閲覧できないの。それくらい希少な階級ね」
「白金は幻の階級って訳ですか」
「そうそう。だから、現実的には紫を最終目的とする冒険者も多いわ」

 紫が頑張れば到達できる最高点、虹は真の実力者、それ以上は本当に誰もが最強を名乗れるだけの実力を持った存在達……ということか。

 そう言うのを聞くとわくわくしてくるな。この階級がそのまま俺が最強へと至るためのガイドラインのような。そんな気さえしてくる。

「大抵の人がボリューム層である蒼階級で終わってしまうんだけれど、必死でがんばれば紫に、そしてその中でも一握りが虹になれるの。それより上はもう空想の世界よ、その階級の人に会えたらラッキーね」

 虹に銀、金、白金……。
 いずれ俺のタグもその色を帯びる時が来るのだろうか。

『ホロウならなれるよ。私が保証する』

 はは、ありがとうカスミ。

「――で、最後。任務は自分の階級と同等かそれ以下のもの全てを受けられるわ。ただ、半年間自分と同等の階級の依頼達成がないと自動で階級が降格になるから注意してね。同等階級の任務失敗が一定数続いても降格するから、挑むときは良く吟味してから挑んでね。――とまあこんな感じだけど、何か質問ある?」
「えーっと、とりあえず大丈夫かな。何かあれば聞きに来てもいいですか?」
「もちろん! カレンの命の恩人だって言うし、いつでも頼ってね」

 キルルカは満面の笑みでそう答える。

「じゃあ、何かあればまた聞きにきます」
「はい! それでは、女神セラ様のご加護が有らんことを」

 そう言ってキルルカは胸に手を当て、お辞儀をする。

 これで晴れて俺も冒険者だ。
 ここから始まるんだ。俺の冒険が。


 そうしていろいろとギルドを観察していると、セシリアも説明が終わったようでこちらへと歩いてくる。

「ありがとう、ホロウ。合格できたのはあなたのおかげね」

 セシリアは胸のタグを見せる。

「いや、こっちこそ。いいサポートだったよ」
「……いいえ、私一人じゃ多分マンティコアは倒せなかった。また何かあったら一緒に戦いましょう。何かあったらいつでも言ってね、力になるわ」

 そう言ってセシリアは俺に握手を求める。
 俺はそれをしっかりと握り返す。

「あぁ。俺たちは同期だからね。何かあったら俺も力に成るよ」
「ふふ、期待してるわ」

◇ ◇ ◇

「おっす、ホロウ! 合格したかよ、やるなあ!」

 と、俺達がギルドを出たときにそこに居たのはカレンさん達だった。

「うん、無事合格出来たよ」
「ひっひ、さすがだぜ。――と、そうだ、お前にいい話を見つけてきてやったぜ、合格祝いだ」
「いい話?」

 するとカレンさんはにやっと笑う。

「刀を扱える鍛冶屋があったんだ。西地区の裏路地でひっそりとやってる隠れた名店さ」
「ま、まじすか!」
「おう! そこの店主の"テッサイ"って奴がなんでも刀の名匠らしい」
「へえ……! ありがとう、行ってみるよ」
「いいってことよ、助けてもらったしよ。それに今日からは先輩だからな!」

 こうして俺たちは、まずは二本目の刀を求めてテッサイの元を訪れることにした。