マンティコアを討伐した証として、牙と爪などを収集する。
そのまま気絶したウッドワンを抱えて迷宮の入り口へと戻る。
試験予定は後一日残っているが、俺たちは早めに終わったこともあってそのまま外に出る。
長いようで短かかった二次試験。
人が死ぬという最悪の展開だったが……俺はきっとやれることはできたはずだ。セシリアだけでも救えたんだ、そう思いたい。もっと出来たかもしれないというシコリみたいなものはあるが、それを抱えて進むしかない。だって俺は最強を目指してるんだから。
「お疲れ様です! ホロウ君、セシリアさん」
外に出てギルドへと戻ると、キルルカが俺たちを出迎える。
試験前の格式ばった喋り方は消えていた。
「まさか予定より一日早く終わるなんて、さすがですね!」
「あはは、ありがとう」
すると、キルルカは俺が抱えている人物へと視線を移す。
「――そちらは……ウッドワンさんですね?」
「……はい」
俺はまだ眠るウッドワンを地面に転がす。
「こいつは中で……人を殺した。殺人犯だ」
「それは……」
キルルカは眉をひそめる。
「こいつは……連続殺人犯だ。殺してもよかったけど……俺にはできなかったよ。ギルド側で何とかしてほしい」
「優しいですね。わかりました、ウッドワンの身柄はこちらで預かるわ。今回は犠牲者が1人だったようで、安心したわ」
「はい――って、え? 今回は……?」
キルルカの言葉に、俺は一瞬引っかかる。
今回は……って言ったか……?
まさか……。
「前回は参加者全員だったからね」
キルルカは少し悲しそうに言う。
「え、てことは……知ってたのか……? こいつが、人殺しだって……?」
キルルカは俺の方を見るとニコリと笑う。
「もちろん知ってましたよ。試験中に殺すなんて大胆な真似、バレないわけないじゃない。でも、証拠があるわけでもないから裁けない。証拠がない人間を勝手に私たちが拒むことはできないからね、状況証拠だけじゃだめなのよ。でも、ホロウ君ならやれると思ってたよ! 一次試験凄かったからね、期待通りの結果で嬉しい限りね」
と、キルルカは嬉しそうにこちらを見る。
「な、何言ってるんだ……! それならウッドワンの試験資格を剥奪するとか、もっとあったでしょ!? 人が死んだんですよ!?」
しかし、キルルカはキョトンとした顔のままだ。
「だから、証拠はないの。怪しいってだけでね。でも、そもそも魔物に殺されても悪徳な冒険者に殺されても一緒でしょ? ちゃんと契約書にサインしたでしょ、死んでもいいって」
「そ、そうですけど……」
「同じグループ内で仲間同士どう対応するかも試験の一環なの。個人技が凄いでもいいけど、多くの人は冒険者同士、信頼できるか見極めながら協力するのが一般的だからね。人が任務で死なない為には必要な資質よ」
「そ、そうかもしれないですけど……それでも、わざわざわかっていた危険人物を入れなくても……」
「優しいわね。……いい、ホロウ君。なんのためのグループ試験だと思った? ただ魔物との力を試すなら、一次試験で十分だったでしょ? 二次試験は総合的な冒険者の資質の試験試験なの」
冒険者の資質……。
「冒険者同士の戦いは意外と日常茶飯事なの。これは私たちの目が届かない任務先でも同じこと。いつ何があるかわからないのが冒険者なの。責任の所在、戦果の比重、原因はいろいろとあるけれど。皆あなたみたいに善良と言うわけじゃないから……。犯罪すれすれのことをする人も少なくない。それでも実力があって、結果として多くの民間人を救うことができれば英雄となれるのが冒険者」
「そんな……」
「理想を言ってるんじゃないわ、そりゃ何もない方が理想的だけれど、現実的に力だけがある酷い人間が多いのも事実。そこの見極めが出来な人は冒険者になるべきじゃない。わざわざグループの試験にしたのはそう言う適性を見るためのものよ。冒険者は集団で任務をこなすことも多いわ。パーティメンバーとして相応しい人間かを見極めるっていうのはかなり重要よ。その人が本当に信頼できるか、見極められなければ寝首をかかれる。そういう世界。もちろんバレたら捕まるし、逃げれば殺人犯として賞金首。でも、魔術というのは証拠すら隠蔽してしまうから、任務先での殺人は明るみにならないの。――だがら、この試験で死んだのは自分にとって利益のある人間を見極められなかった彼の実力不足。これが冒険者、いまさら怖気づいたなら辞めてもいいわよ?」
淡々と冒険者の現実を語るキルルカ。
俺は……甘かったのだろうか。
人を信頼することはいいことだろう? けど、ウッドワンのようにそれに漬け込むやつもいる。それを知れたのは確かに俺にとって良いことになったけど……。
「……それでも、俺は誰も死なせたくない。冒険者になっても、もし仲間が裏切っても」
「そう。冒険者として正解はないわ。あなたがその道を進みたいなら止めはしないわよ」
冒険者を長く見てきて、その結論から言っているキルルカさん。
試験に殺人犯を入れてでも冒険者としての資質を見ることを優先した。感覚としては魔物に殺されて失格しても、仲間に殺されて失格しても、結果としては同じという事なんだろう。
そしてきっとそれは、実際に起こっていることなんだ。それでも、俺は……。
眉間に皺をよせ考える俺に、キルルカさんはフフっと微笑む。
「まあ、ホロウ君は優しいからね。その優しさで救われた人もいるでしょ」
キルルカさんはセシリアを見る。
「――頑張ってね、ホロウ君。実際にこの試験を突破したのは君自身の力よ。冒険者としての資格はあるわ。どんな冒険者になるか……楽しみね。君が強くなって皆を導けるような冒険者になればきっとそんな現実も変わるはず。その魔術を斬れる力でね」
「俺の力で……」
そうして俺とキルルカの話し合いは終わった。
仕組まれた……というのは言い過ぎだが、それでもウッドワンの行為を容認して冒険者試験を続けていた冒険者ギルド。それだけ過酷で選ばれた人しかなれないのはわかってたけど。俺は、できれば人同士によって誰かが死ぬことがないような、そんな……誰も家畜にならなくて済む世界を作りたい。
そのためには――
「結局俺が強くなれば済む話、か」
『そうね、ホロウならできるよ、私はそう信じてる!』
「うん、頑張ろう……!」
そのまま気絶したウッドワンを抱えて迷宮の入り口へと戻る。
試験予定は後一日残っているが、俺たちは早めに終わったこともあってそのまま外に出る。
長いようで短かかった二次試験。
人が死ぬという最悪の展開だったが……俺はきっとやれることはできたはずだ。セシリアだけでも救えたんだ、そう思いたい。もっと出来たかもしれないというシコリみたいなものはあるが、それを抱えて進むしかない。だって俺は最強を目指してるんだから。
「お疲れ様です! ホロウ君、セシリアさん」
外に出てギルドへと戻ると、キルルカが俺たちを出迎える。
試験前の格式ばった喋り方は消えていた。
「まさか予定より一日早く終わるなんて、さすがですね!」
「あはは、ありがとう」
すると、キルルカは俺が抱えている人物へと視線を移す。
「――そちらは……ウッドワンさんですね?」
「……はい」
俺はまだ眠るウッドワンを地面に転がす。
「こいつは中で……人を殺した。殺人犯だ」
「それは……」
キルルカは眉をひそめる。
「こいつは……連続殺人犯だ。殺してもよかったけど……俺にはできなかったよ。ギルド側で何とかしてほしい」
「優しいですね。わかりました、ウッドワンの身柄はこちらで預かるわ。今回は犠牲者が1人だったようで、安心したわ」
「はい――って、え? 今回は……?」
キルルカの言葉に、俺は一瞬引っかかる。
今回は……って言ったか……?
まさか……。
「前回は参加者全員だったからね」
キルルカは少し悲しそうに言う。
「え、てことは……知ってたのか……? こいつが、人殺しだって……?」
キルルカは俺の方を見るとニコリと笑う。
「もちろん知ってましたよ。試験中に殺すなんて大胆な真似、バレないわけないじゃない。でも、証拠があるわけでもないから裁けない。証拠がない人間を勝手に私たちが拒むことはできないからね、状況証拠だけじゃだめなのよ。でも、ホロウ君ならやれると思ってたよ! 一次試験凄かったからね、期待通りの結果で嬉しい限りね」
と、キルルカは嬉しそうにこちらを見る。
「な、何言ってるんだ……! それならウッドワンの試験資格を剥奪するとか、もっとあったでしょ!? 人が死んだんですよ!?」
しかし、キルルカはキョトンとした顔のままだ。
「だから、証拠はないの。怪しいってだけでね。でも、そもそも魔物に殺されても悪徳な冒険者に殺されても一緒でしょ? ちゃんと契約書にサインしたでしょ、死んでもいいって」
「そ、そうですけど……」
「同じグループ内で仲間同士どう対応するかも試験の一環なの。個人技が凄いでもいいけど、多くの人は冒険者同士、信頼できるか見極めながら協力するのが一般的だからね。人が任務で死なない為には必要な資質よ」
「そ、そうかもしれないですけど……それでも、わざわざわかっていた危険人物を入れなくても……」
「優しいわね。……いい、ホロウ君。なんのためのグループ試験だと思った? ただ魔物との力を試すなら、一次試験で十分だったでしょ? 二次試験は総合的な冒険者の資質の試験試験なの」
冒険者の資質……。
「冒険者同士の戦いは意外と日常茶飯事なの。これは私たちの目が届かない任務先でも同じこと。いつ何があるかわからないのが冒険者なの。責任の所在、戦果の比重、原因はいろいろとあるけれど。皆あなたみたいに善良と言うわけじゃないから……。犯罪すれすれのことをする人も少なくない。それでも実力があって、結果として多くの民間人を救うことができれば英雄となれるのが冒険者」
「そんな……」
「理想を言ってるんじゃないわ、そりゃ何もない方が理想的だけれど、現実的に力だけがある酷い人間が多いのも事実。そこの見極めが出来な人は冒険者になるべきじゃない。わざわざグループの試験にしたのはそう言う適性を見るためのものよ。冒険者は集団で任務をこなすことも多いわ。パーティメンバーとして相応しい人間かを見極めるっていうのはかなり重要よ。その人が本当に信頼できるか、見極められなければ寝首をかかれる。そういう世界。もちろんバレたら捕まるし、逃げれば殺人犯として賞金首。でも、魔術というのは証拠すら隠蔽してしまうから、任務先での殺人は明るみにならないの。――だがら、この試験で死んだのは自分にとって利益のある人間を見極められなかった彼の実力不足。これが冒険者、いまさら怖気づいたなら辞めてもいいわよ?」
淡々と冒険者の現実を語るキルルカ。
俺は……甘かったのだろうか。
人を信頼することはいいことだろう? けど、ウッドワンのようにそれに漬け込むやつもいる。それを知れたのは確かに俺にとって良いことになったけど……。
「……それでも、俺は誰も死なせたくない。冒険者になっても、もし仲間が裏切っても」
「そう。冒険者として正解はないわ。あなたがその道を進みたいなら止めはしないわよ」
冒険者を長く見てきて、その結論から言っているキルルカさん。
試験に殺人犯を入れてでも冒険者としての資質を見ることを優先した。感覚としては魔物に殺されて失格しても、仲間に殺されて失格しても、結果としては同じという事なんだろう。
そしてきっとそれは、実際に起こっていることなんだ。それでも、俺は……。
眉間に皺をよせ考える俺に、キルルカさんはフフっと微笑む。
「まあ、ホロウ君は優しいからね。その優しさで救われた人もいるでしょ」
キルルカさんはセシリアを見る。
「――頑張ってね、ホロウ君。実際にこの試験を突破したのは君自身の力よ。冒険者としての資格はあるわ。どんな冒険者になるか……楽しみね。君が強くなって皆を導けるような冒険者になればきっとそんな現実も変わるはず。その魔術を斬れる力でね」
「俺の力で……」
そうして俺とキルルカの話し合いは終わった。
仕組まれた……というのは言い過ぎだが、それでもウッドワンの行為を容認して冒険者試験を続けていた冒険者ギルド。それだけ過酷で選ばれた人しかなれないのはわかってたけど。俺は、できれば人同士によって誰かが死ぬことがないような、そんな……誰も家畜にならなくて済む世界を作りたい。
そのためには――
「結局俺が強くなれば済む話、か」
『そうね、ホロウならできるよ、私はそう信じてる!』
「うん、頑張ろう……!」