「これは……酷いな」
横たわるガイはピクリともしない。
死んでいる。
くそ、助けられなかった……犠牲者が……。
俺は拳を強く握る。
セシリアは落ち着きを取り戻したようで、改めてガイの死体を見つめている。
「……叫んでごめんなさい。ちょっと……死体にはいい思い出が無くて」
「いや、大丈夫だよ。俺も初めて見て正直ビビってる」
「死体なんてだしたくなかったんだけど……」
セシリアは悔しそうに目を細める。
「……でもしょうがないわ。あれだけ張り切ってたんだから強いものと思ってたけど……まさかこんなことになるなんて。マンティコアにやられたのね。ということは近くにいるのかしら」
「でも血が乾いてる。やられたとしたら昨夜辺りかも」
「…………」
死亡率25%。誰も死なないなんてことは無いとは思っていた。でも、俺さえもっと早く見つけてマンティコアを倒していれば……。
「早く倒していればなんて無駄な考えよ」
「え?」
セシリアの声に、俺は振り返る。
「冒険者になるために危険な試験を受けに来た。死んだのはショックだけど、できもしないのに自分のせいにしてたら持たないわよ」
「でも――」
「これは私のせい。この中で一番強い私がさっさと倒さなかったから犠牲者が出た。それだけ」
「セシリア……」
「切り替えるしかないわ。少なくともマンティコアはガイを殺した。血痕が残っているのなら場所を割り出せるかもしれない」
「……そうだね」
そうだ、死者が出ることはわかっていたことだ。
気を取り直して俺はマンティコアを倒すことだけを考えよう。
俺はガイの死体に近づく。
死体を見るのは初めてだな……。その表情は、思ったよりも穏やかだった。
「死因はなんだ……」
身体を見ると、無数の切り傷がある。爪か?
だが、どれも傷跡としては細い。もし爪なんかで切り裂かれたとしたらもっと肉が飛び出したり……とにかく惨いことになってるんじゃないだろうか。
それに、嚙みつかれたような跡もない。
マンティコア……なのか……?
というか、この魔力反応――――。
嫌な予感が、俺の脳裏をよぎる。
「マンティコアって魔術使うのかな」
「上位の魔物なら使う種もいるみたいだけど、マンティコアは聞いたことないわね」
「…………」
やはり何かおかしい、この死体は。
マンティコアに襲われたにしては"綺麗すぎる"ような……。
『マンティコアに襲われて四肢が繋がっているなんて確かにおかしいわね。傷も浅い』
「ちょっと周りを見てみるか」
俺は少しこの死体の周りを見てみることにした。
もしマンティコアに襲われたのなら、爪や身体に付着した血がマンティコアの移動先に向かって残っているんじゃないかと思われたが、死体の周り以外に血の付いた場所は見当たらなかった。
ガイの体中の切り傷は浅く、一つ一つは致命傷ではない。
それにさっきから感じるこの魔力反応……。
きっとこの場で俺にしか感知できない魔術の残滓。
恐らく風属性……ガイの最後の抵抗で出した魔術の痕跡か? でも、ガイには防御した様子がない。証拠にガイの身体の傷以外、木や地面に破壊の跡がない。ということは風魔術を使ったのは、ガイに傷を負わせた方か……。
「これは……」
よく見るとガイの両手足、喉に深めの傷がある。
『喉と腱が切られてるね』
喉と腱……抵抗も出来なかったのか。
ガイは腰に剣をぶら下げていた。恐らく先生と同じ魔剣士だ。剣での反撃も封じられたか……用意周到だ。
不意を突かれたな。
寝込みを襲われたか……それとも、油断している隙に先手を打ったか。どのみちガイの反撃を許す前にすべてを終えられたみたいだ。
嫌な予感が当たってしまったようだ。
これだけ証拠が揃えば答えは一つしかない。
「――これ、マンティコアじゃないぞ」
「え?」
セシリアが不思議そうな顔で俺を見る。
「何言ってるのよ。マンティコアじゃないなら一体何にやられたの? さすがにライガや角兎のような低級な魔物にやられるようなら一次試験なんて突破出来ないわよ」
「マンティコアにやられたにしては死体は綺麗だ。マンティコアの爪でつけられたような傷には見えない」
「確かにそう見えなくもないけど……」
「それに、ガイに反撃した様子はないけど、風魔術の反応がある。この傷は風魔術だよ」
「えっ、魔力の反応が読み取れるの!?」
「うん、まあ特技みたいなものだよ」
セシリアは徐々に顔をしかめていく。
「……風魔術による傷、抵抗させる間もなく喉と腱を切る周到さ……ということは、相手は魔物じゃなくて――――多分、人間だ。人間に殺されたんだ」
「なっ……冗談でしょ……!?」
確かに信じたくはない。だが、その可能性が高すぎる。
この死亡現場がそれを物語っていた。魔物の仕業ではないと。
「だとしたら、ウッドワンが……?」
「どうだろう……話した感じあの人は人が死ぬことを嘆いていたし……」
「でも、可能性としてはもうそれしかないでしょ」
「もしかすると、マンティコア以外に冒険者受験者を襲う試験官が居るのかもしれない」
「受験者を殺してでも邪魔をする試験官?」
「もしかしたら、だけどね。第五の人間がいるか、あのウッドワンが犯人か……今のところは五分だよ」
「そうね……冒険者試験は死ぬことがあると契約させられる。試験として人間から襲われても対処できるという裏項目があったとしてもおかしくはないわ」
「うん」
厄介なことになってきた。
まさか二次試験で殺人なんて……。
「……ここから先は二人で行動した方がいいと思うんだけど、どう?」
するとセシリアははぁっと溜息をつく。
「…………そうね。あなたにまで死なれたら困るし。二人なら安全でしょ」
「うん」
こうして俺たちは二人でマンティコアを追うことにした。
恐らくどこかにウッドワンか第五の人間が居る。
もしかするとガイの死体現場からそう遠くない場所で監視し、俺達を付けているかもしれない。
とにかく急がないと。
先にマンティコアを見つけて、この試験を終わらせる。
二次試験……厄介なことになってきたな。
横たわるガイはピクリともしない。
死んでいる。
くそ、助けられなかった……犠牲者が……。
俺は拳を強く握る。
セシリアは落ち着きを取り戻したようで、改めてガイの死体を見つめている。
「……叫んでごめんなさい。ちょっと……死体にはいい思い出が無くて」
「いや、大丈夫だよ。俺も初めて見て正直ビビってる」
「死体なんてだしたくなかったんだけど……」
セシリアは悔しそうに目を細める。
「……でもしょうがないわ。あれだけ張り切ってたんだから強いものと思ってたけど……まさかこんなことになるなんて。マンティコアにやられたのね。ということは近くにいるのかしら」
「でも血が乾いてる。やられたとしたら昨夜辺りかも」
「…………」
死亡率25%。誰も死なないなんてことは無いとは思っていた。でも、俺さえもっと早く見つけてマンティコアを倒していれば……。
「早く倒していればなんて無駄な考えよ」
「え?」
セシリアの声に、俺は振り返る。
「冒険者になるために危険な試験を受けに来た。死んだのはショックだけど、できもしないのに自分のせいにしてたら持たないわよ」
「でも――」
「これは私のせい。この中で一番強い私がさっさと倒さなかったから犠牲者が出た。それだけ」
「セシリア……」
「切り替えるしかないわ。少なくともマンティコアはガイを殺した。血痕が残っているのなら場所を割り出せるかもしれない」
「……そうだね」
そうだ、死者が出ることはわかっていたことだ。
気を取り直して俺はマンティコアを倒すことだけを考えよう。
俺はガイの死体に近づく。
死体を見るのは初めてだな……。その表情は、思ったよりも穏やかだった。
「死因はなんだ……」
身体を見ると、無数の切り傷がある。爪か?
だが、どれも傷跡としては細い。もし爪なんかで切り裂かれたとしたらもっと肉が飛び出したり……とにかく惨いことになってるんじゃないだろうか。
それに、嚙みつかれたような跡もない。
マンティコア……なのか……?
というか、この魔力反応――――。
嫌な予感が、俺の脳裏をよぎる。
「マンティコアって魔術使うのかな」
「上位の魔物なら使う種もいるみたいだけど、マンティコアは聞いたことないわね」
「…………」
やはり何かおかしい、この死体は。
マンティコアに襲われたにしては"綺麗すぎる"ような……。
『マンティコアに襲われて四肢が繋がっているなんて確かにおかしいわね。傷も浅い』
「ちょっと周りを見てみるか」
俺は少しこの死体の周りを見てみることにした。
もしマンティコアに襲われたのなら、爪や身体に付着した血がマンティコアの移動先に向かって残っているんじゃないかと思われたが、死体の周り以外に血の付いた場所は見当たらなかった。
ガイの体中の切り傷は浅く、一つ一つは致命傷ではない。
それにさっきから感じるこの魔力反応……。
きっとこの場で俺にしか感知できない魔術の残滓。
恐らく風属性……ガイの最後の抵抗で出した魔術の痕跡か? でも、ガイには防御した様子がない。証拠にガイの身体の傷以外、木や地面に破壊の跡がない。ということは風魔術を使ったのは、ガイに傷を負わせた方か……。
「これは……」
よく見るとガイの両手足、喉に深めの傷がある。
『喉と腱が切られてるね』
喉と腱……抵抗も出来なかったのか。
ガイは腰に剣をぶら下げていた。恐らく先生と同じ魔剣士だ。剣での反撃も封じられたか……用意周到だ。
不意を突かれたな。
寝込みを襲われたか……それとも、油断している隙に先手を打ったか。どのみちガイの反撃を許す前にすべてを終えられたみたいだ。
嫌な予感が当たってしまったようだ。
これだけ証拠が揃えば答えは一つしかない。
「――これ、マンティコアじゃないぞ」
「え?」
セシリアが不思議そうな顔で俺を見る。
「何言ってるのよ。マンティコアじゃないなら一体何にやられたの? さすがにライガや角兎のような低級な魔物にやられるようなら一次試験なんて突破出来ないわよ」
「マンティコアにやられたにしては死体は綺麗だ。マンティコアの爪でつけられたような傷には見えない」
「確かにそう見えなくもないけど……」
「それに、ガイに反撃した様子はないけど、風魔術の反応がある。この傷は風魔術だよ」
「えっ、魔力の反応が読み取れるの!?」
「うん、まあ特技みたいなものだよ」
セシリアは徐々に顔をしかめていく。
「……風魔術による傷、抵抗させる間もなく喉と腱を切る周到さ……ということは、相手は魔物じゃなくて――――多分、人間だ。人間に殺されたんだ」
「なっ……冗談でしょ……!?」
確かに信じたくはない。だが、その可能性が高すぎる。
この死亡現場がそれを物語っていた。魔物の仕業ではないと。
「だとしたら、ウッドワンが……?」
「どうだろう……話した感じあの人は人が死ぬことを嘆いていたし……」
「でも、可能性としてはもうそれしかないでしょ」
「もしかすると、マンティコア以外に冒険者受験者を襲う試験官が居るのかもしれない」
「受験者を殺してでも邪魔をする試験官?」
「もしかしたら、だけどね。第五の人間がいるか、あのウッドワンが犯人か……今のところは五分だよ」
「そうね……冒険者試験は死ぬことがあると契約させられる。試験として人間から襲われても対処できるという裏項目があったとしてもおかしくはないわ」
「うん」
厄介なことになってきた。
まさか二次試験で殺人なんて……。
「……ここから先は二人で行動した方がいいと思うんだけど、どう?」
するとセシリアははぁっと溜息をつく。
「…………そうね。あなたにまで死なれたら困るし。二人なら安全でしょ」
「うん」
こうして俺たちは二人でマンティコアを追うことにした。
恐らくどこかにウッドワンか第五の人間が居る。
もしかするとガイの死体現場からそう遠くない場所で監視し、俺達を付けているかもしれない。
とにかく急がないと。
先にマンティコアを見つけて、この試験を終わらせる。
二次試験……厄介なことになってきたな。