「えっ、いや、そんな事ないけれど。」

下を向いたほのさんが、やけに寂しそうに見える。


「もしかしてほのさん、るか様の事……」

はっとするほのさん。

「やっぱり、好きなのね。」

バツの悪そうなほのさんの顔を見て分かった。


もしかしたら、さっきの話、聞かれた?


「あの……ほのさんは、他に好きな人がいたんですよね。」

「ええ。そうでした。」

なにかを悟ったように、ほのさんは”歩きましょう”と、手を添えてくれた。

私達は、ゆっくりと廊下を歩き始めた。

「私も最初は、好きな人がいて。その人以外に結婚する人なんて、考えられなくて。だから、るか様が嫁にならなくていいって。このままここに居ていいって言われた時には、とてもほっとしたんです。」

ほのさんは、どちらかと言うと、線の細い感じの人。

でもそういう人は、思いつめると何をしでかすか、分からない。

「でも、だんだんるか様の優しさに惹かれていって……気が付いた時には、好きになっていました。」

「その想いを告げた事は?」

するとほのさんは、ううんと首を横に振った。

「そんな事、今更言えないです。」