初夜を迎えた後、るか様が私の部屋を訪れる事はなかった。

毎日、外を眺めては、ため息をつく日を過ごした。


「ほのさん。ほのさんは、ここに来る前に、好きな人がいたの?」

何気なく聞いてみると、ほのさんは外を眺めた。

「そんな時も、ありましたね。」

まるで、遠い昔のように答えた。

「るか様から聞いたわ。ほのさんは、湖の中に入った後、自害したって。」

「ほほほ。そんな時もありました。」

同じ答えに、ちょっと力が抜ける。

「そんなに好きな人がいたのに、生贄になったんですか?」

「そうですね。いづれにしても、女から好きな気持ちを伝えるなんて、できないですから。生贄になれと言われれば、それまでですよ。」

「自害したって……なにも湖の中に入れば、死んだのも当然なのに、どうして自害まで?」

「あらやだ。つき様は、湖の伝説を知らないのですか?」

「湖の伝説?」

そんなの聞いた事はない。

ただ、生贄を捧げれば、雨を降らせてくれるって言う話しか知らない。


「湖に身を投げた女性は、水神様に嫁ぐという伝説ですよ。」

「……知らなかったわ。嫁入り衣装も、ただの形だけだと思っていた。」

「長い間の伝説で、形だけ残ったんですね。」

ほのさんは、うんうん頷くと、自分で淹れたお茶をすすった。

「そんな伝説があったから、水神様に嫁ぎたくないと思って。それで自害したんですよ。」