そうして昨日と同じように、私の後ろを九郎が付いて歩く構図となった。
危険な足場が多い分、今回の経路はいくらか昨日よりも近道。昼に差し掛かる前には、昨日ぶりの鳥居の前に辿り着くことが出来たのだった。

深く一礼して、鳥居を潜る。
長い石段を登りながら、今日は九郎が話し掛ける番だった。

「フヨさんは、あまり今のご奉公先が好きではないようですね。」

それは昨日の、私が漏らしてしまった願い事を言っているんだろう。
私は少し言葉を選ぶ間を設ける。

「…そう、ね。
生活のためだから、好きじゃなくても仕方なく働いてる人は多いんじゃないかしら。」

「そういうものですか。
でもフヨさんが悲しそうな顔をするのは、あんまり見たくないですね。」

そう言ってくれるのは素直にありがたかった。
でも不満を口にしたところでどうしようもない。私は特に話を発展させることなく「そうね」とだけ返した。

「そうだ、僕で力になれることは無いですか?相談ならいくらでも乗れますし、意地悪な輩がいたら懲らしめてあげましょう。」

腕には覚えがあるようで、九郎は笑顔のまま、合わせた両手をポキポキと鳴らしている。善意からの発言なのだろうけど、その様子はとても物騒だ。

でも前半の「相談」に、私は少し反応した。
何かをしてくれとは言わない。話すだけ。話すだけなら…。

「……これは、例え話だけど…、
九郎なら、“とても嫌な思いをしているけど、そこから逃げ出せない”時、どうやって気を紛らわせる…?」