翔が京の屋敷に滞在したのは30分もなかったように思う。
近くに寄ったから京に会いに来たのだろうと思うが、時間があるのならばもう少し滞在してもいいような気がした。親しき中にも礼儀ありという言葉があるように翔なりに気を遣ったのかもしれないと思った。
翔が帰ってからみこがつばきに耳打ちをした。

「つばきさん、しばらく京様は機嫌が悪いようですので」
「え？そうなのですか？」
「まぁ、あなたのせいでしょうけど」

え、と大きく声を上げるがみこは既につばきの脇を通って厨房へ向かった。
それを追いかけようとしたが、雪が「つばきちゃん」と言って駆け寄ってくる。

「ねぇねぇ、京様なんか機嫌悪いみたいなんだけど…」
と、みこが言ったことと同じことを伝えてくる。

「そ、それって私のせいかな」
「え？まぁそうかもね～妬いてるんじゃない？中院翔様今日もカッコいいからね」
「翔様が”カッコいい”のとどう関係しているの？」
「だってつばきちゃんと翔様とっても仲がいいように見えたもん」
うーん、と首を傾げながら雪の言葉を脳内で咀嚼した。
「別に仲がいいわけじゃないんだけど…」
「そうかなぁ。そう見えるよ」
「あ、そうだ。雪ちゃん、ちょっと聞きたいことがあるの」

思い出したように雪に詰め寄る。
突然顔色を変えたつばきに雪はキョトンとした様子でいいけど、と言った。