「どうぞ」

同時に襖がすっと開いた。つばきが膝を折り曲げ正座した状態で「お茶をお持ちいたしました」と言った。お盆の上に二つの来客用の湯吞がある。

「ありがとう」

京よりも先にお礼を言う翔を一瞥するが気にも留めていないようだ。
つばきは随分と慣れた様子で二人の前にお茶を運ぶ。ここへ来た当初とは比べ物にならないほどに、だ。

「つばきちゃん、もう慣れた?」
「はい、京様のお陰で日々安心して暮らせております」
「へぇそうなんだ」
つばきは「失礼します」ともう一度頭を下げてから客間から出ていく。
「安心って言葉普通使うかな」
ぼそっと独り言のように放たれた言葉は、確実に京へ向けられている。
「やっぱり色々家庭環境とか不安定だったんだろうね。それが京君と出会って救われた、と」
「あぁ、つばきのことは今も色々と裏で動いている」
「あの悪戯の件?」

そうだ、というと翔は湯呑に手を伸ばした。
一口飲むと、音もたてずにそれを元の位置へ戻した。

「今はもうそういうことはないんだよね?ならとりあえずは安心だね。一条家に守られているっていう事実も相当強いよ。あまり手は出せないだろうし。仮につばきちゃんに恨みがある人物がいても、ね。それはそうと、つばきちゃんも何だか雰囲気変わったよね。強くなったというか…」

翔と同じ印象を持っていた。つばきは変わった。もちろんいい意味で、だが…あの錯乱した状態になった理由が未だにわからないのだけが不安を残している。