「じゃあね、つばきちゃん」
「はい、また」
つばきはさっと自分たちの前から去っていく。みこの元へ行ったのだろう。彼女は女中ではないのだが屋敷内の仕事を他の女中と同じくらいやっている。
応接間に翔を連れてくると直ぐに口火を切る。
「で、お前もしかしてつばきに会いにきたんじゃないのか」
座椅子に腰かけるタイミングが重なった。
「うん、そうだね。端的に言えばそうなるかも」
隠す様子もないところは翔のいい所でもあるが妙に腹が立つ。つばきも翔に心を許しているような表情をしていた。
「ちょうどいい。俺はつばきと将来的に結婚したいと思っている。周囲には既にそう伝えている」
「あぁ、それは聞いたよ。一条家の大ニュースだよね。それにしても京君がそんなに夢中になる子が現れるなんてね」
「翔はつばきのことを好いているのか」
単刀直入に訊くと翔は曖昧に笑って見せた。昔から掴みどころのない奴だ。
本心を隠しているのかもしれないし、実は京をからかっているのかもしれない。
翔は腕を組んで首を捻る。流れるような目線を京へ送りながら、
「さぁ?」
と言った。
「なんだ、その曖昧な返答は」
「だって面白いでしょ。京君って誰かに固執するような男じゃなかったし。俺、てっきり一生独身かと思ってたよ」
と。
失礼します、と襖の向こうから声がする。つばきの声だ。