応接間の襖を開けた。だが、そこには翔の姿はなかった。
トイレだろうかと用意されてある座椅子に座る。だがそれも一瞬だった。
何故なら襖の向こうからつばきと翔の話し声が聞こえたからだ。
自分では考えるより行動に出るタイプではないと自負していたが、この日は違った。
いや、この日というよりもつばきが関わることになると大概こういう反応になる。
直ぐに襖をあける。
廊下に出て左側に体を向けると二人の姿があった。翔はシンプルな濃紺の着物に茶色の羽織り、帯は白系の明るい装いだった。

「京君久しぶりだね」

爽やかな笑みを自分へ向けられるが、それよりもつばきが気になった。

「あぁ、久しぶり。今日は何か用事でもあったのか」
「いや?全然ないんだけど近くに寄ったからね。それにつばきちゃん元気にしているかなって思って」
「つばきは元気だ」

素っ気なくそう言うと、意味深に笑う翔。京がつばきたちを視野に入れるとはっとして翔と距離を取ったつばきの行動にまるで自分が来る少し前まで内緒の話でもしていたかのようだ。翔は翔で、二人で会った際も随分つばきを気にかけていた。
翔は昔から一緒だったから女性の名前を頻繁に出すことは珍しいことであるのは自分がよくわかっている。