つばきの鼻を啜る音が響いた。

「私も京様を愛しております」

その言葉を訊き安堵するが、だからと言って彼女が自分の元から去らないとも限らないのだ。
つばき自身にも何か迷いを感じる。これももちろん根拠のない勘だ。

「分かったのです」

つばきがそう言った。京は顔をつばきに向ける。
真っ直ぐに正面だけを見つめる彼女は何かを決心したような表情をしていた。

「何を、だ」
「どうして…私に緋色に光る瞳の能力を授かって生まれてきたのか…ようやく、わかったのです」
「それを俺に話すことは…―」

そこまで言って京は口を噤む。つばきがそっとこちらへ視線を向けたからだ。
潤んだ瞳とは相反する強い口調だった。

「分かったのです。ようやく…私の瞳は京様のために、いつか出会う京様のために存在したのです」
そこまで言うとつばきは口元に薄く笑みを浮かべる。
「それはどういう意味だ」
「申し訳ございません。京様にお伝えすることは出来ません。ですがこれだけは確かです。私は京様のために存在した」
つばきが何を言いたいのか掴めそうで掴めない。わかりそうで、わからない。彼女はいったいどのような“能力”を持っていて、自分とどのように関わっているのか。