みこにも他の女中たちにもつばきが逃げ出さないように注意しておくように伝えてある。

「今夜は…一人で眠りたいのですが、」
「ダメだ。しばらくは俺の部屋で過ごしてもらう」
でも、というつばきの言葉を遮る。
「いいから、俺の言う通りにしろ」
「分かりました…」

つばきを半ば無理やり隣へ寝かせる。石鹸の優しい香りが彼女からした。
今のままではつばきが自分のもとから去るのではないかという一抹の不安があった。
根拠のないただの勘のようなものだが、以前彼女が自分の元から去ったあの時を思い出す。ソワソワと不安に駆られる、今までそんなことはなかったのに。

静まり返る寝室でつばきは仰向きになったまま静かに目を閉じた。それを確認してから京もつばきの隣で体を休める。
ただ、どうしてもつばきのことが心配で眠ることが出来ない。
つばきが既に寝入ってしまったのかはわからないがそっと彼女の手を握った。
するとつばきはその手を強く握り返した。

「起きているのか」
「…はい」
「何度も言うが俺はお前を誰よりも大切に思っている。誰よりも愛している」
本心だ。
手放すつもりなど微塵もない。たとえ彼女が自分の元から去ろうとしてもそれを望んでいたとしても、だ。
つばきを幸せにできるのは自分だけだと思っているからだ。いや、幸せにしたいのだ。
誰よりも。