彼女の手を握っているとようやくつばきが目を覚ました。
つばきは息を大きく胸を上下させると悪夢から目覚めるようにガタガタと身体を震わせる。

「つばき、大丈夫か」
「京、様…」

京を視界に捉えるとポロリ涙を堪えきれずにつばきの頬に雫が落ちる。それが静かに輪郭を伝うと彼女は顔を両手で覆った。
一体何が起こりつばきが錯乱状態になったのか理由を知りたかった。
しかし京はストレートにつばきに錯乱した理由を訊くことを躊躇っている。
何故ならそれを聞けば緋色の瞳の本当の力を聞き出すことになるからだ。
無理やりに聞き出すつもりはなかった。

「つばき、大丈夫か」
「はい…ごめんなさい、私…」
「大丈夫だ。先ほど医者に診てもらったがどこも悪い箇所はなかった。今はどうだ?どこか痛んだりはしないか」
「どこも…異常はありません。痛みもありません…」

静かにそう言うと揺れる目を手元に移した。
今にも消えそうな声を出すとその後京が声を掛けても首を横に振り謝るのみだった。

食欲もないようで、みこが用意した食事を何とか口にするがそれも無理やりのようだった。
夕食後、風呂に入りいつもならばつばきは自室へ向かうがこの日は京がそれを許さなかった。不安定に見えるつばきを一人にすることは出来なかったからだ。