錯乱した状態のつばきは京の名前を呼びながら気を失った。
医者に訊いても無意味なことはわかっていた。おそらくつばきの能力が関係していると確信していた。
一応医者を呼び、どこも異常がないことを確認したかっただけだった。
つばきはあの目で京を見たから錯乱して意識を失ったのだ。だとすれば原因は自身にあるのでは…と京は思っていた。
彼女の目で誰かを見ても錯乱したことはなかったのだろう。もしも毎回同じようになるのであればあの場で京に許可を取ってまで緋色の瞳で京を見ようとはしなかっただろう。

もしくは事前にそれを伝えられていたはずだ。
つまり、つばきの能力で予想外の”何か”が起こった。
京は深く息を吐き、天井を見上げた。
初めてつばきを見たとき、彼女の瞳は薄く光っていた。通常の人間ではあり得ない光り方をしていた。

だが橋から身を投げようとした彼女の目はどうしてか“希望”があったように思えた。あの目は今から死を決心しているような瞳には見えなかったのだ。不思議だった、何の迷いもなく川に飛び込もうとする彼女の緋色に光る瞳が希望に満ちていたなど…―。矛盾しているのに。

もうつばきが眠りについて6時間が経過していた。
本来は仕事へ行く予定だったが、つばきのことが心配で休みを取った。