「平気です」
その言葉は嘘でも強がりでもない。
「平気、か。お前は随分と強い女だな」
「…」
「だが、その強さは本来必要ないものだ。意味がわかるか?」
つばきは首を横に振った。

「今までは一人で頑張ってきたかもしれないが、これからは俺やみこたちを頼っていい」
「…」

どうして、という言葉を呑み込んだ。
今日出会ったばかりの死にそうな女を助けここまでしてくれる。
もちろん夜伽という役割はあるが、買われたはずならば普通はもっとひどい扱いをされるはずだ。

「今日はここで寝ろ。明日以降は部屋を与えるが、俺が呼ぶ夜はここに来い」
「…はい、わかりました」

つばきの長い髪を掻き分けるようにして指を通し、頬に手を当て顔を上げさせる。
京の力強い瞳がつばきをしっかりと映していた。
不思議だった。どうしてか、京に見つめられると心臓が激しく動き出す。
俺に頼れといってくれたその言葉を信じたいと思ってしまっていた。

「この浴衣もありがとうございます」
「そんなことはどうだっていい。それより今日は早く寝ることだ。ちなみに体を拭いたのは女中だから安心しろ」
「っ」
「おやすみ」

京は口角を上げてそういうと少し離れたところにあるベッドに移動した。
夜伽として買われたはずなのに、彼は優しかった。