先日、つばきは花梨からこのパーティーのことを聞いた。
それは京の婚約者という意味深な発言のせいでつばきに不安だけを残していたが、実際は京の話と花梨の話には乖離があった。
それに、花梨が京へ渡してほしいといったあれはいったい何だったのだろう。
確か借りていたものだと言っていた。些細なことなのにモヤモヤするのは既に京から想いを伝えられたからだろうか。
もしもあの告白がなければ、そもそも自分には知る権利すらないと思っていたから。
それに…どことなく花梨の表情が硬いのは何故だろうと思った。
喋り方も雰囲気もいつもと同じなのに。

「花梨にも正式に紹介しておこうか。将来の妻になるつばきだ」
「…っ、そ、それに関してご両親は何と言っておられるのですか」
「俺が決めたことだ。別に何と言おうが関係ない」
「それは…一条家長男として正しい判断ですか」
「正しい判断かどうかなんて本人が決めることだ。俺は俺のしたいようにする。その代わりすべては自分の責任だ。それも承知の上だ」
「そうですか…」

花梨の表情から笑みがすっと消えた。

「あの小箱、返しにこの間伺ったのですが受け取ってくだいましたか?」
「あぁ、あの指輪か」
「ええ、それならいいのです。それでは、私はまだご挨拶しなければならない方々がおりますので失礼します」

そう言って花梨はそそくさとその場を後にした。



(指輪を返すってどういうこと?京様と花梨様、昔から家同士での付き合いがあったと言っていたからもしかしたら以前は親密な関係だったのかもしれない…)

心に靄がかかるものの、先ほどされた愛の告白を思い出せばなんてことはない。
ただ、どういう意図で京がそれを花梨へプレゼントしたのか少しだけ気になった。今はつばきの指にも京からもらった指輪が輝いている。
京と想いを通じ合わせることが出来たというのに、そうやって小さなことに嫉妬心を芽生えさせるのは愚かなことだ。

「もう少し挨拶に付き合ってくれ。そのあとは皆より早めに帰ろう」
「分かりました」

京はつばきの足を心配しているようだった。
少し捻っただけで腫れもなく今は普通に歩けるのだが、彼は心配性なようだ。
だがその心遣いも嬉しい。
初めて華族たちが集まるパーティーに参加したが、参加する前までは不安もあったが今は違った。ここへきて良かったと思っていた。
京へ想いを伝えることが出来たし、京の家族と会うことも出来た。
花梨との過去も気になるが、今京が自分を選んでくれているのならば関係ない。
そう思えるのも京のお陰だと思っていた。

「随分強くなったな、いや…最初からか」
「いえ、私は強くなどありません。京様がいるからです」

そう、本当に思うのだ。