首をゆらゆらと横に振り、夢?と言った。
京は小さく笑ってつばきに「違う、夢じゃない」と言った。

「どうして…、京様が私を?」
「そうだ。そこまで驚くことか?既に俺の胸の内はお前に知られていると思っていたが」
「私は買われた身でした。ですから…屋敷内に置いてもらえるだけで幸せなはずなのに…っ…私も、京様を愛しております」

体を震わせてそう言った。
言ってはならない言葉だと思っていた。ずっと、そう思っていた。
ただの夜伽なのだ。そう思うことすら失礼になると思っていた。
京から放たれた言葉のお陰で自分の口から彼への想いを伝えることが出来た。

「本当か」
「本当ですっ…私はずっと京様を愛しております。本当はこのような言葉を発することすらいけないことだと思っておりました」
「いけないこと?そんなことはない。何故なら俺はその言葉のお陰で正々堂々とお前を抱きしめられる」

京は安堵したように笑うとつばきに目線を合わせ、抱きしめた。
雑音などまるで聞こえない。二人だけの世界だった。この世に二人だけなのだと錯覚してしまうほどに京の声しか聞こえない。
京の背中に手を回す。夢のようだと何度も思った。
もしも夢ならば絶対に覚めないでと強く願った。

「大丈夫だ、俺はお前を手放したりしない。絶対に」

その声につばきは強く頷いた。