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静寂に包まれた周囲に響くヒール音。それが途絶えるとつばきは自然に視線を上に移していた。見上げると、想像以上の立派な洋館にごくりと唾を飲んでいた。
門番に取り継ぐ京は慣れているようだった。一宮伯爵邸へは何度か訪問したことがあると聞いている。

(そういえば、私を何と言って紹介するのかしら。まさか夜伽として紹介するわけにはいかないはず…聞いていなかったのが悪いけれど…)
怖気ついてしまいそうになるのをぐっと堪えた。胸元の開いたドレスが慣れず無意識にダイヤが輝く胸元に手を当てる。

京はつばきに体を密着させた。
「わ、京様、」
腰に手を回され、引き寄せられる。

「大丈夫だ、俺がいれば怖いことは何もない」
「はい…」

つばきは下唇を噛んだ。どうしてここまで私に幸せを与えてくれるのだろう、と思うのだ。
自分は京に何かを与えられているだろうか。
重厚な門が開き、使用人が顔を出した。

「一条様、お待ちしておりました」

つばきもすぐに挨拶をしたが、表情を一切変えず業務的に挨拶をする使用人に失礼はなかったかどうかさっそく気になってしまった。
中に入ると人の多さと家の広さに圧倒された。
「今日招待されている人は少ないな」
辺りを見渡しながらそう言った京に思わず眉間に皺を作っていた。