「ありがとうございました。一週間ほどで仕上がりますのでまたご来店ください」
既製品の中から選んだとはいえ、並んであったドレスの中で一番高価なドレスだったことは会計時に気が付いた。
「足元がふらついているようだが、体調が悪いか?」
「いえ!それよりもあんなにも高価なドレスをありがとうございます…」
「そんなことはいいんだ」
足元がふらついていたのはまだ収まらない鼓動のせいだ。フワフワとした感覚が抜けない。
理由は簡単だ。先ほどのキスと、店員が幾度となく発した奥様というワードのせいだ。
それを否定しない京の真意が知りたくもなる。
わざわざ訂正するほどのことでもない、というのが本当のところだとは思っているが。
「私で…いいのでしょうか」

人力車で屋敷に向かう最中に小声でそう訊いた。揺れるたびに、肩が京とぶつかりそうになる。それほどまで近い距離だった。体を合わせているというのに、こんなことで緊張して意識している。先ほどのキスだってそうだった。

「お前がいいんだ。不安な点があれば相談してくれ。当日はみこにも頼んで準備してもらう」
「ありがとうございます」
伏し目がちにそう言うとつばきは外に目をやった。