百貨店前入口には既に数人の客で賑わいを見せていた。
目を輝かせるつばきに京はくすりと笑う。

「なんだ、そんなに楽しいのか」
「はい!初めてですので」
「そうか、それはよかった」
つばきはまるで小さな子供に戻ったかのような表情をする。京も同じように表情を緩ませる。
店内に入ると直ぐに店員らしき女性が声を掛けてくる。
どうやらこの店も京の顔を見ただけで“一条京”だと認識し、接客するようだ。

「洋裁店で買い物がしたい。今日は彼女のドレスを選びに来た」
「かしこまりました。ではご案内いたします」

物腰の柔らかい綺麗な女性がつばきに微笑む。ぺこりと頭を下げ、無意識につばきの背筋が伸びる。
洋裁店に到着する。婦人たちにも人気な店なのだろう、裕福だと一瞬で分かる彼女たちは楽しそうにお喋りをしながらドレスを選んでいる。
並んである服に目をやりながら、京が慣れた様子で店員に説明する。

「本当は彼女の体に合うように一から仕立ててもらいたいが、再来週までに用意したい。多分それには間に合わないと思うのだが」
「そうですね、一からとなりますと…最低三週間頂いているので。でしたら、既製品の中から好みのものを選んでいただいて…それを奥様のお体に似合うようにお直しさせていただきます」