「京様、準備が整いました」

京の部屋の前でそう声を掛けると、ドアが開く。
京もつばきに合わせ、着物姿だった。しかし、つばきの正面に立つ京は普段とは様子が違う。正確に言うと、つばきを視界に捉えた瞬間固まったのだ。
つばきの顔をまじまじと見つめる。

「あの…何か顔についているでしょうか」

恥ずかしくなったつばきは思わず自分の頬を両手で包み込む。

「すまない、化粧をしているのか」

京がそう言ってつばきの両手の上から手を重ねた。
「はい、ゆ、雪ちゃんから借りた化粧道具で少しだけ…」
動揺して声が裏返った。それも相俟って更に頬に熱を宿す。
京がじっとつばきの顔を見つめ続ける。
(こういう時どうしたらいいの?これ以上見つめられたら…)
「綺麗だと思ったんだ」
「え…―」
「とても綺麗だ。早くドレス姿が見たい」

スラスラと女性からすれば卒倒しそうな言葉をその端麗な顔で言うのだ。
あわあわと口を開け、小刻みに首を振るが京はつばきの心の内など知る由もなく続けた。
彼の手がつばきの首筋を撫でた。
「できれば俺だけが見ていたい姿ではあるんだが」