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まだ眠気が残っている中、つばきは京の声で目を開けた。

「起きたか」
「は、はい。すみません寝過ごしていたようです」

時計に目をやると既に七時を過ぎていた。慌ててベッドの中から抜け出そうとするが、体が動かない。
京の腕が伸びてきたせいだ。彼の腕は簡単につばきの体を拘束し離さない。
目を瞬かせる。向かい合うような体勢で彼を見つめる。
綺麗な瞳に吸い込まれそうになった。形の良い唇が小さく弧を描く。

「近いうちにパーティーがある」
「パーティー…」

まさか彼の口からそれが出るとは思ってもいなかったつばきはドキッと胸を大きく弾ませた。そしてすぐに花梨を思い出す。
昨日花梨が来たことはみこから伝えられているはずだ。

「そうだ。それでお前が嫌でなければ出席してほしいんだ」

暫くの間つばきは無言だった。
大きく目を見開き、京の言葉の意味を何度も咀嚼しながら脳内でリピートする。

「どうした?何故黙るんだ」
「いえ…あの、それはどういう意味でしょうか」
「どういう意味?そのままの意味だ。一宮伯爵から誘われているんだ。一宮伯爵は大のパーティー好きで、一条家の長男である俺も誘われている。来年には一条家を継ぐことも決まっているからな」
「そうなのですか…でしたら尚更、私がパーティーに参加するのは失礼に当たると思います」
「別に失礼ではないだろう。俺が一人で出席する方が失礼だ」

既に決定事項とでもいうように言い放つ京につばきは当惑した表情のまま首を横に振った。