…―…


「どうした、つばき」
「いえ、すみません。考え事をしておりまして…申し訳ございません」

夜、既に風呂に入り終えたつばきは京の寝室に来ていた。
ついボーっとしていたつばきは京の声に我に返る。
仕事だというのに、集中できないのは花梨の件があったからだ。
あの箱は一体何が入っているのか、詳しくは知らないがパーティーに花梨を婚約者として連れていくのか気になっていた。というか今日一日はずっとそれらに気を取られていた。

「何を考えていた?」
「…それは…」

言葉を濁すつばきに珍しく京は苛ついているように見えた。
ベッドの上に寝かされたつばきはキョロキョロと黒目を動かして恥ずかしさを紛らわせる。

「今日は翔に会った」
「翔…様に?」
「そうだ。お前のことを随分気にかけていたように思う」
そうですか、と言ったが一体何故急に翔のことを話題に出すのか分からない。

「翔のことを考えていた、ということはないか?」
「え…?翔様の?いえ、そのようなことはありませんが…翔様は私にも優しく接してくれるとてもいい人ですよね」

妙な雰囲気に呑まれるつばきは咄嗟に翔の印象を京に話した。
花梨のこともあってか、いつも以上に冷静さを欠いていた。
しかし、京は更に眉間に深く皺を寄せた。


そしてつばきの素足に手を這わせるとそのまま手を侵入させた。あ、と小さく声を漏らすと同時に唇も塞がれた。


どうしてなのかわからないが、京にいつもの余裕はなかった。
まるで自分を求めているように感じた。そんなことはないはずなのに。
夜伽として京に満足してもらうはずがいつも逆になっていることに罪悪感が募るがそれはいつも最初と最後だけ。途中からは京が主導で快楽に任せただはしたない声を上げる。快楽に身を捩り、現実と夢の狭間で京に抱かれる。

「京、様…っ」

京がつばきの首筋に顔を埋める。途切れ途切れになる声が京を求めていた。

「気に入らない。翔の話題になるとお前は顔が綻ぶ」

京の話している内容が頭に入ってこない。繰り返される愛撫にいったい序盤だというのに全身を脱力させた。自分の体は何度彼に抱かれたら慣れてくれるのだろうか。
その夜はどうしてなのか京は普段よりも強くつばきを抱いた。
つばきは一晩中嬌声を上げ続け、気が付くと朝になっていた。