「それじゃあ、京様によろしく」

花梨はそう言って背中を向けた。立ち尽くしていると、背後からつばきを呼ぶ声が聞こえる。
はっとして振り返るとみこがいた。

「誰か来てました?」
「あ…はい。花梨様が」
「あぁ、あの方ですか。で、もう帰られたの?」
「はい。京様に会いに来たようです。あとこれを返しにきたと」
つばきはみこに四角い箱を見せた。
みこも初見のようで首を捻った。
中身は気にならないわけではないが、勝手に見るわけにもいかない。
胸の痛みに気が付かない振りをしてつばきは強制的に口角を上げる。

「では、京様のお部屋に置いておきます。用件はそれだけでした?」

はい、というとみこはつばきから箱を貰いスタスタと廊下を歩いていく。
浮かれていた。自分はこの屋敷で夜伽として働いているだけの女だ。
それだけなのに。
涙ぐむつばきはこれではいけないと思い首を横に振る。
(私は京様に拾われた身、だ。夜伽として傍にいられるだけで幸せなのだから)