「お前が屋敷からいなくなることは想定していなかったが、姿が見えなくなったからすぐに探しに来たんだ」
「…ごめんなさい」
「謝らなくていい。が、お前の目を知っているものが屋敷に嫌がらせの紙をまき散らしたようだな」

やはり京は知っていたようだ。いつからなのかはわからない。しかしもうこれ以上嘘は重ねることは出来ないと悟った。

「だいたい目星はついているが、証拠がない。みこにも先ほど聞き取りをした。警護の者には今後不審な人物は屋敷に入れないよう伝えてある。とにかく、この件は一人で抱え込まなくていい」
「でも…、屋敷の人たちにも京様にも迷惑がかかります。私の緋色の目のせいで…変な噂が流されたら…ここまでしてもらってこれ以上ご迷惑をおかけしたくないのです」

京から珍しく深い息が漏れた。
呆れられたのかと思ったがそうではないようだ。京がゆっくりとつばきから体を離すと、涙で濡れた頬を男らしい大きな手で包み込む。
強制的に上げられた顔のせいで視線が絡む。

「迷惑?俺はそんなこと全く思っていない。いったはずだ。俺はお前を手放す気はない。お前を買ったのは俺だと」
「…はい」

今になって気が付いたが、京の呼吸は少し乱れていた。きっと急いで探しにきてくれたのだろう。そう思うと、胸の奥深くが熱くなる。

「つばきは何も心配しなくていい。俺の傍にいたらいいんだ」

ぽつぽつと雨が降り出した。
重くのしかかっていた不安が京の言葉で一瞬で楽になった。あぁ、どうして彼はこうも優しいのだろうと思った。

「つばきを傷つけるものは誰だろうが許さない」