「京、様…?」
そこには京がいた。見たこともない剣幕でつばきの隣にいる男に詰め寄る。

「さっさとその手を離せ」
「あ…あなた様は…確か、」

途端、つばきから手を離すと「違います、無理に連れて行こうだなんて。ね?」とつばきに同意を求めた。しかし、京から放たれる明らかな敵意に怖気ついてしまったのかそそくさと逃げてしまった。

「何故、ここにいる」
「…それは、」
「屋敷から逃げようとしたのか」

恐らくここにいるのはつばきを探していたからだろうし、京はほぼすべてを分かっているのだろう。
無言は肯定しているということになる。つばきは「申し訳ございません」とか細い声で謝罪した。だが、伸びてきた手がつばきの体を強く拘束した。
京に迷惑がかかるとわかっているのに、それでもこうして抱きしめられると安心した。

「京様…、ごめんなさい、私は…っ…」
「何もされていないか。怪我はないか」
「ありません」

まだ震えるつばきの体を抱きしめ続ける京はそう言ってつばきの体を心配する。
優しい香りが鼻孔を擽った。京の香りだと思うと心底安心した。
ポロポロと涙が京の着物を濡らした。