♢♢♢
「ここは…」
薄っすらと緋色に光る灯りに瞼をゆっくりと開けて辺りを確認した。
広い部屋は西園寺家で見て以来の洋室だった。
大きなベッドが窓際に置かれ、その近くには幾つか机が並べられている。一つは書き物机だろう。
物は多くはないが、一つ一つが高価なものであることはわかっていた。
西園寺家での暮らしを思い出しながら、いったいここはどこであるのか必死に考えた。
どうしてなのか薄くボロボロになった着物ではなく、真新しい浴衣姿だった。
「何、ここはっ…」
最後、気を失う際に見たのはあの男の顔だった。
胸元に手を当て、ふかふかの布団の上に寝かされている事実を確認する。
ここがどこなのか、ここまで誰が連れてきたのか分からないが逃げるなら今しかないと思った。もしかすると既に自分は売られているのではないか、そう考えると合点がいく。
つばきは立ち上がり、窓に近づいた。
大きな窓からは外の様子はあまりよく見えなかった。
雨粒が強く窓を叩いている。
もう生きることは疲れたのだ。
自ら命を絶つことは許されることではないのかもしれない。だが、もう無理だった。
窓のロックを解除し、勢いよくそこを開いた。
が、同時に背後のドアが開いた。
「っ…」
「なんだ、目覚めてたのか」
そこには、つばきが橋から身を投げようとした際に引き止めた男が立っていた。
男もつばきと同じように浴衣姿だった。怜悧な顔を向ける男は少しずつつばきに近づいた。
ごくりと唾を呑み込み、下唇を噛んだ。
「ここまで運んでくださったのですね、ありがとうございます」
歪な笑顔を必死に作り、男の動きを観察しながらどうやって逃げるか考える。
男を油断させてから逃げるか、それとも今逃げるか…―。しかし、男はつばきの思惑を見通しているとでもいうように薄ら笑いを浮かべた。
「残念だが、今逃げたところで外は24時間見張りがいる。諦めた方が気が楽だよ」
「…私は、…っ」
「もちろん、俺がお前を買った。どこにも行かせない」
平然とそう言った。
つばきは今は逃げることは不可能だと悟った。
「どうして私を買ったのですか」
「どうして?そうだな、それはお前が気になったからだ」
「気になった…?」
男がつばきと距離を詰めた。
「生きることから逃げようとしているのに、お前の目には光があった。それに呪われた瞳とやらにも興味がある」
「呪われた瞳を信じるんですね、じゃああなたも呪い殺されるかもしれないのに?それともこれから私の目を焼いてどこかへ売るのでしょうか」
「そんなことするわけないだろう。金に困ってなどいない」
目の前まで男がつばきのもとへ来る。
至近距離だと更に精悍な顔つきをしていると思った。
「呪い殺したいのならばすればいい」
そう言ってつばきの顎に手を添えた。想像以上に冷たい手だった。
「ここは…」
薄っすらと緋色に光る灯りに瞼をゆっくりと開けて辺りを確認した。
広い部屋は西園寺家で見て以来の洋室だった。
大きなベッドが窓際に置かれ、その近くには幾つか机が並べられている。一つは書き物机だろう。
物は多くはないが、一つ一つが高価なものであることはわかっていた。
西園寺家での暮らしを思い出しながら、いったいここはどこであるのか必死に考えた。
どうしてなのか薄くボロボロになった着物ではなく、真新しい浴衣姿だった。
「何、ここはっ…」
最後、気を失う際に見たのはあの男の顔だった。
胸元に手を当て、ふかふかの布団の上に寝かされている事実を確認する。
ここがどこなのか、ここまで誰が連れてきたのか分からないが逃げるなら今しかないと思った。もしかすると既に自分は売られているのではないか、そう考えると合点がいく。
つばきは立ち上がり、窓に近づいた。
大きな窓からは外の様子はあまりよく見えなかった。
雨粒が強く窓を叩いている。
もう生きることは疲れたのだ。
自ら命を絶つことは許されることではないのかもしれない。だが、もう無理だった。
窓のロックを解除し、勢いよくそこを開いた。
が、同時に背後のドアが開いた。
「っ…」
「なんだ、目覚めてたのか」
そこには、つばきが橋から身を投げようとした際に引き止めた男が立っていた。
男もつばきと同じように浴衣姿だった。怜悧な顔を向ける男は少しずつつばきに近づいた。
ごくりと唾を呑み込み、下唇を噛んだ。
「ここまで運んでくださったのですね、ありがとうございます」
歪な笑顔を必死に作り、男の動きを観察しながらどうやって逃げるか考える。
男を油断させてから逃げるか、それとも今逃げるか…―。しかし、男はつばきの思惑を見通しているとでもいうように薄ら笑いを浮かべた。
「残念だが、今逃げたところで外は24時間見張りがいる。諦めた方が気が楽だよ」
「…私は、…っ」
「もちろん、俺がお前を買った。どこにも行かせない」
平然とそう言った。
つばきは今は逃げることは不可能だと悟った。
「どうして私を買ったのですか」
「どうして?そうだな、それはお前が気になったからだ」
「気になった…?」
男がつばきと距離を詰めた。
「生きることから逃げようとしているのに、お前の目には光があった。それに呪われた瞳とやらにも興味がある」
「呪われた瞳を信じるんですね、じゃああなたも呪い殺されるかもしれないのに?それともこれから私の目を焼いてどこかへ売るのでしょうか」
「そんなことするわけないだろう。金に困ってなどいない」
目の前まで男がつばきのもとへ来る。
至近距離だと更に精悍な顔つきをしていると思った。
「呪い殺したいのならばすればいい」
そう言ってつばきの顎に手を添えた。想像以上に冷たい手だった。