みこから聞いた話だと、早朝だと警備に当たっている人数は一人だったようだ。
ちょうど翔が訪ねてきた時間帯は二人だった。
そして、警護の男に詳細を訊くと“男”がみこを訪ねてきたという。
警護の役目は屋敷内で何かあった時の対応だ。京からすれば自身がいない間、屋敷内は女性だけになることを危惧して雇っているようだ。
要するに、自身の警護目的ではないらしい。
警護の人間は、見知らぬ人物が屋敷を訪ねる際簡単に荷物検査をするようだ。
この屋敷に住ませてもらっている者はその必要はないから初耳だった。

刃物などの凶器を持っていた事実はないらしい。ただ、『この資料を女中頭の方へ…』と言って10枚以上重なった紙を持参していたとのこと。
しかし男はすぐに屋敷を出て立ち去ったとのこと。
恐らくその際に紙がばら撒かれたのだろう。その男の特徴をみこから聞いたがもちろん知らない人物だった。
清菜だと思っていたつばきはますます不安に駆られた。

ただ紙が敷地内にばら撒かれただけで、京や女中たちへの脅迫文でもない。

(明日には…ここを出よう。絶対に迷惑はかけられない)

夕方、京が帰宅した。
いつも通りに帰宅し、自室へ戻ったようだ。今夜は夜伽の仕事はない。
夜にそっと家を出るか、それとも…翌日の日中に買い物をするという口実で屋敷を出るか。
後者の方がいいと思った。
夜中だと誰かに見つかれば“言い訳”が出来ない。