「まぁ色々あるもんね。兄弟だって親だってそうだし。京君も弟がいるけど仲は良くないみたいだし」
「…そうなのですか」
「うん。あんまり詳しくは知らないけどね。ほら、京君っていい意味で華族って感じしないでしょ。型にはまってないというか…。まぁ彼の家はそれを良く思っていないんだ。弟もね。公爵家としてしっかり後を継ぐのは長男であるはずなんだけど本人は親の力も借りずに貿易会社を経営して規模を大きく出来る才能がある。それも親からすれば気に入らないんだろうね。特に弟君とは仲が悪いよ」

京についてもっと知りたいのに、初耳だった。
そして今更知ったところで…という思いも同時に沸き起こる。

「そろそろ帰るよ。つばきさん、何かあれば僕も力になるから」
「ありがとうございます」

微笑を浮かべる翔に無理やり口角を上げた。
客間を出て廊下を二人で歩いていると「つばきちゃん!」と声が聞こえる。
あまりに大きな声で翔とつばきは同時に肩を揺らしていた。

「雪ちゃん?」
「いた!あ、こんにちは!」

雪は隣にいる翔に軽く会釈するも、すぐにつばきに目をやる。
そして呼吸を乱しながら、今にも泣きそうになりながら

「あれって本当なの?!」
と言った。
あれ、とはつまりあの紙の件だろう。
雪は狼狽しながらも必死に言葉を紡ぐ。
「う、うん…本当だよ。でも…呪ったりとかは、」
「本当なのね…でも、別に誰も殺してなんかないよね?」
「うん、それは違う。詳しくは言えないけど、…間違ってる部分もある」
雪はほっとしたように良かったぁといった。