華に浪漫~夜伽のはずが溺愛されています~【完結】

みこの目は誰が見ても分かるほどに、真剣で強い意志が宿っている。
揺るぎない、強い意志だ。
つい先ほどまで持っていた自分の意思が揺らいでしまいそうになった。甘えてしまいそうになった。
つばきは深く頭を下げた。

「もしも…京様に話すというのであれば私はここを出ていかなければなりません。買われた身なのにも関らず、京様に心配をかけるなど…本当に嫌なのです。衣食住も用意され、死にそうになっていたのに今ではこんなにいい生活をさせてもらっている。これ以上、京様に心配をかけたくありません。どうか…お願いいたします」

ここを出ていく決意は変わっていない。みこに口止めをしてもらっていても、近いうちにばれる可能性は高い。
何故ならばあの悪戯が一度だけとは限らないからだ。
もしかすると、数日後にまた同じような紙がばら撒かれるかもしれない。次は京の耳にもこの話が伝わるかもしれない。

どのみち、つばきにはここを出ていくという選択肢以外ないのだ。
だが、せめて出ていくまでの間、京が余計な心配をしないよう、迷惑がかからないよう、この件は内密にしてもらいたい。
少しの間だけでいい、できれば明日には…ここを出ていくからそれまで口止めしてもらえたらいい。

(私がここを出ていければ、この悪戯もなくなるはず。どうか…京様には迷惑が掛からないうちにここを去りたい)