「せっかくだからちょっと話そうよ。この間の簪は使ってくれた?」
「…あ、あの…」
と、背後から声がした。
「中院様、どうされましたか」
「みこさん、久しぶりだね。ちょうど京君に会いに来たんだけど」

ようやく頬から離れた手、そして振り返るとみこがいた。
みこは「京様は夕方ごろお戻りになります」と端的に答える。
みこさん、と呼ぶ翔はそれなりにここへ通っているようだ。

「うん、今はいないんだよね。でもせっかくだしちょっとゆっくりさせてくれないかな?つばきさんとも少し話がしたいし」
「…それは、」
「ダメかな?」
「…承知しました」

渋々了承するみこは「どうぞ」と翔たちを客間へ通す。翔の要望でつばきも一緒に通された。客間は完全な和室だ。
襖で二部屋に仕切られている。ちょうど庭園が見える。

「どうして私まで…」

客間へ通されてすぐにつばきは疑問をぶつけた。先ほどの涙を見られていたことは恥ずかしさがあるがそれよりもどうして自分などに構うのかと思っていた。
「泣いていたこととこれが関係あるのかなって」
「っ」
翔は懐から二つに折られた紙を取り出した。それはつばきが先ほど拾ったものと同じものだった。
口を半開きにして数秒無言になった。

「何故…それを、」
「屋敷近くに落ちてあったんだ。というか今日は風が強いから飛ばされてきたのかもしれない。この紙に名前が書かれてあったから気になったんだ。つばきって聞いたことあるなぁって思って。この間会ったあの子かなって。悪戯かもしれないなぁとは思ったんだけど君が泣いているのを見て本当なのかな、と」
「……どう、して」

軽い口調で話す翔につばきはどうして?と言葉に出していた。
もしもそれが真実だと思っているのならば、どうしてこの人は自分の目を見て笑っていられるのだろうと。
いつの間にか立ち尽くすつばきの目の間に立ち、まるで小さな子供を見守るような目で見据える。

「本当なんだ?誰だろうね、こんなものばら撒く何て」
「…どうして、私の目を見られるのですか。どうして…」
「緋色に光ると呪われるの?でもそうだったら今光ってないしなぁ」

困惑していた。
死ぬかもしれないのに真っ直ぐにつばきを見る。不思議で仕方がなかった。
翔は、京と同じだと思った。つばきを腫れ物扱いすることはしない。利用しようとも思っていない。

「大丈夫?」
「はい、大丈夫ですが…」
「つばきさん、以前に会った時よりも凄く顔色がいいね。あ、…その指輪って」
つばきの手元に目をやる翔。