「まだつばきさんはお若いわ。私と同い年ですもの。目の件は…そうね、しょうがないから使えなくすればいいのではないかしら」
「…っ」
「そうすれば、体を売って稼いでもらうことが出来る。このままではもちろん“働く”ことは出来ないでしょう?」
「それもそうですねぇ」

清菜は非常に美しい少女だった。幼いころからつばきはどうしてか清菜に嫌われていた。
美貌も才もある彼女がどうしてつばきにそのような“敵意”を向けるのか分からなかった。
つばきはこのままでは目を失い、そして売られることを悟った。

―逃げなければ

足音が近づく、歩きからして清菜だと思った。
品の良い歩き方をする彼女を思い出し、どうすべきか考えた。いずれ死ぬのだろうと思っていた。いや、死にたいと思っていた。
どうせ餓死して死ぬのだろうと、それでいいと思っていた。
母親の教えを守り、この目のことは黙ったまま―…。

ぐっとボサボサの髪の毛を掴まれ、無理やり顔を上げさせられた。

「さぁ、その目を焼いて…―私が援助したお金くらいは返してくださいね?」

何がおかしいのか清菜は笑うのをやめない。そして思いっきり勢いをつけてつばきの顔を地面にたたきつけた。
痛みで涙が零れそうになった。
泣いてはいけないと思い、必死に声を押し殺す。涙が出ないように唇を強く噛んだ。

「…水を、飲ませてください」
「水?」
「そうです。水です。眩暈がして呼吸も浅いのです」

嘘ではなかった。つばきはお願いします、と言った。
言葉も絶え絶えに、何度も…―。

流石に死なれては困ると思ったのか、周囲の人に水を持ってくるように伝えると清菜は息を吐いた。
少しすると、水が運ばれてくる。

「あの…足の拘束を解いてくれませんか?長らくこのままでしたから、力が入りません」
「…まぁいいでしょう。どうせもう動ける力も残っていない。来週にはつばきさんはあなたを買ってくださるお店を探して働いてもらいますね。そのつもりで」
「わかりました」

清菜が去るのが音で分かった。
久しぶりに解放された足首につばきは一か八かの賭けに出た。

「ほら、死なれちゃ困るんだよ。水、のみな」

口元にひんやりと冷たい水が流れていく。それを何口か飲む。
つばきは足音が遠くなったことを確認すると、最後の力を振り絞って立ち上がった。
体を売って働かなければならないのならば自ら死んだ方がマシだと思ったのだ。
どうせ生きていたっていいことなどない。
母も父もいないこの世界で、何も望むことはないのだ。
腰に力を入れて、這いつくばるようにして小屋の端に移動する。
そこに手のひらサイズに石が転がっている。若干先端の尖っている石に手首を拘束している布を当て、上下に動かした。
何度も、何度も。
どのくらい時間が経過したのか不明だが、手首の拘束が緩むのを感じ一気に力を入れる。


つばきはすぐに目元の拘束を取った。