「彼女はつばきという。屋敷で働いてもらっている」
「あぁ、女中さんですか?」
「お初にお目にかかります。つばきと申します」
女中だと思ったようでほっとしたような表情をする花梨に益々不安が募っていく。
「女中じゃない。つばきは俺が買った」
「…え、それは…どういう」
「そのままだ」
困惑する花梨は何やら時間を気にしている素振りを見せる。
「わ、私は…前松花梨と申します。京様とは小さいころから家同士で仲良くさせていただいております」
つばきはさっと頭を下げた。恐らく彼女も華族だと悟った。
「今日はお時間がございませんので…あまりお話できませんがそのうち何かの機会にお会いできるのを楽しみにしております」
「あぁ、そうだな」
「…その、つばきさんとおっしゃいましたね。あの…買ったとはどういう…」
揺れる瞳に、震える声。
自分の勘は正しいと思った。彼女は間違いなく京のことが好きだと思った。
京は何一つ表情を変えずに言った。
「詳しくは言えないが、つばきは俺が買った。今は屋敷で働いてもらっている。そして大切な女性だ」
「…そう、ですか」
京はそう言うと、つばきの肩を引き寄せた。突然の行動に思わず小さな声を上げていたがそれを見た花梨は「今日は失礼いたします」と言って去っていく。
「あの…」
「すまない、嫌だったか」
「いえ、そのようなことは…」
花梨がいなくなるとすぐに引き寄せていた手を肩から離した。
“大切”とはどのような意味だろう。花梨とは家同士のかかわりがある。
幼少期からの知り合いということはもしかすると、結婚の話も出ているのではないか。
「彼女は、伯爵家のご令嬢だ」
「そうですか」
本当はもう少し踏み込んで聞きたいことがあった。
しかし、つばきの立場でそれを聞くのは躊躇われた。
「行こう」
彼の言葉を合図にまた歩き出す。
(あんなに綺麗な人が京様の周りには沢山いる。私も少しでもいいから京様に似合うような女性に近づきたい)
そんな本来抱いてはならない感情も湧き出てくるのだ。
しばらく歩いていると、京がつばきの顔を覗き込む。
「わ、」
「どうかしたのか。気分でも悪いのか」
「いいえ、そのようなことは…」
ただ花梨のことが気になっていた、など言えるわけがない。今のつばきは屋敷に住まわせてもらっているだけ十分すぎるほどに良くしてもらっている。
「そうか。この店で簪でも選ぼう」
「…はい」
京の目線の先にお洒落な外装の店がある。そこへ入ると、先ほどと同様に気品のある女性店員が迎えてくれる。
京はどの店でも顔が知られているようだった。
どうして京が簪をプレゼントしたいといったのか未だに理解できずにいた。
そこのお店は簪だけではなく、時計や小物なども売っているようだ。
髪飾りもたくさんある。
最近は大き目のリボンの髪飾りが流行っているようだ。闊歩する女性たちの多くがそれをつけていたのを思い出す。
感嘆の声を漏らしながら店内を見て回る。他にもお客はいるが、皆裕福そうな装いをしている。
「あぁ、女中さんですか?」
「お初にお目にかかります。つばきと申します」
女中だと思ったようでほっとしたような表情をする花梨に益々不安が募っていく。
「女中じゃない。つばきは俺が買った」
「…え、それは…どういう」
「そのままだ」
困惑する花梨は何やら時間を気にしている素振りを見せる。
「わ、私は…前松花梨と申します。京様とは小さいころから家同士で仲良くさせていただいております」
つばきはさっと頭を下げた。恐らく彼女も華族だと悟った。
「今日はお時間がございませんので…あまりお話できませんがそのうち何かの機会にお会いできるのを楽しみにしております」
「あぁ、そうだな」
「…その、つばきさんとおっしゃいましたね。あの…買ったとはどういう…」
揺れる瞳に、震える声。
自分の勘は正しいと思った。彼女は間違いなく京のことが好きだと思った。
京は何一つ表情を変えずに言った。
「詳しくは言えないが、つばきは俺が買った。今は屋敷で働いてもらっている。そして大切な女性だ」
「…そう、ですか」
京はそう言うと、つばきの肩を引き寄せた。突然の行動に思わず小さな声を上げていたがそれを見た花梨は「今日は失礼いたします」と言って去っていく。
「あの…」
「すまない、嫌だったか」
「いえ、そのようなことは…」
花梨がいなくなるとすぐに引き寄せていた手を肩から離した。
“大切”とはどのような意味だろう。花梨とは家同士のかかわりがある。
幼少期からの知り合いということはもしかすると、結婚の話も出ているのではないか。
「彼女は、伯爵家のご令嬢だ」
「そうですか」
本当はもう少し踏み込んで聞きたいことがあった。
しかし、つばきの立場でそれを聞くのは躊躇われた。
「行こう」
彼の言葉を合図にまた歩き出す。
(あんなに綺麗な人が京様の周りには沢山いる。私も少しでもいいから京様に似合うような女性に近づきたい)
そんな本来抱いてはならない感情も湧き出てくるのだ。
しばらく歩いていると、京がつばきの顔を覗き込む。
「わ、」
「どうかしたのか。気分でも悪いのか」
「いいえ、そのようなことは…」
ただ花梨のことが気になっていた、など言えるわけがない。今のつばきは屋敷に住まわせてもらっているだけ十分すぎるほどに良くしてもらっている。
「そうか。この店で簪でも選ぼう」
「…はい」
京の目線の先にお洒落な外装の店がある。そこへ入ると、先ほどと同様に気品のある女性店員が迎えてくれる。
京はどの店でも顔が知られているようだった。
どうして京が簪をプレゼントしたいといったのか未だに理解できずにいた。
そこのお店は簪だけではなく、時計や小物なども売っているようだ。
髪飾りもたくさんある。
最近は大き目のリボンの髪飾りが流行っているようだ。闊歩する女性たちの多くがそれをつけていたのを思い出す。
感嘆の声を漏らしながら店内を見て回る。他にもお客はいるが、皆裕福そうな装いをしている。