よく見ると和服姿の店員全員が指輪をつけている。

「和服でも洋服でもつけられますので、人気なんですよ」
「そうなんですか…」
「ええ、そうです。最近はプラチナにダイヤが流行っております。お似合いになると思いますよ。それから…―懐中時計も人気です。和装が多ければそちらでもいいかなと思うのですが」

どれも高級なものだろう。
つばきは申し訳なさで眉を八の字にする。京がそっとつばきの隣に来る。
不安げに京を見上げると、京は何がおかしいのかクスクスと笑った。
あまり笑うことのない京の笑顔に少しだけ緊張が解れていく。

「どれもお前に似合うな。好きなものを買っていい」
「そんなことを言われましても…どれも高級すぎます。私には…っ」
先ほど店員が言った『特別な女性』というワードを思い出す。
婚約者でもなければ、女中でもない。ただの”夜伽”役だ。
それなのに…―。

「そんなことはない。どれも似合う」
「……」

そう言われると不思議と違和感がなくなる。
幾つか指輪が並べられる。どれも素敵で選べそうになかった。だから結局京に選んでもらうことにした。
京が選んだのは桜をモチーフにした立て爪の指輪だった。
購入後、せっかくだからと京につけてもらうことになった。つばきの細くて長い指にすっと指輪を通す。店員の視線が気になるが、それよりもまるで今にも愛の言葉を囁かれそうなシチュエーションに全身を熱くした。
「よく似合っている」
「ありがとうございます。大切にします」
京は満足げに笑った。
つばきたちはそのまま店を出た。


夢心地のつばきはフワフワしながら、京の隣を歩く。
右手の薬指にある指輪はまだ慣れない。どうしてもチラチラとそれを確認してしまう。
まるでデートをしているようだと思った。

と。

「京…様?」

後方から京を呼ぶ声が聞こえた。
ほぼ同じタイミングで京とつばきが振り返る。
そこには洋装姿の若い女性がいた。十代後半かつばきと同じく二十歳前半か。腰ほどまでに伸びた髪を緩くウェーブさせ、つばきと同じようにハーフアップにしている。大き目のリボンの髪飾りがとても素敵だった。
ぽってりとした唇に化粧をしているのだろうか、薄く色づく頬に唇、媚びた印象はないのにくりくりした目は“可愛い”という言葉以外出てこない。
淡い桜色のワンピースは彼女の雰囲気に良く似合っていた。
見とれていると、彼女はずんずんとつばきたちと距離を縮める。

「お久しぶりです、京様」
「花梨、どうした」

花梨という名の女性は上品に笑って言った。
「近くで買い物をしておりました。あの、そちらの方は?」
花梨はつばきに目をやる。親し気な雰囲気を感じ取り、胸の中がぞわぞわと騒ぎ出す。