お洒落をする機会などいままでなかった。本当は精一杯お洒落をして京と出かけたかった。
ハーフアップにして一階の書斎に向かった。
姿勢を正す。出来るだけ京の隣に並ぶことが恥ずかしくないようにしたい。
「失礼します、準備が整いました」
襖を開けると着物姿の京がちょうど目の前に立っていた。今部屋を出る予定だったようだ。
「その着物もよく似合っている」
「ありがとうございます」
似合っていると褒められるだけで、十分に嬉しい。
松葉色の着物に身を包み、つばきを見下ろすその瞳に自分のそれを重ねると頬が熱くなる。
それが全身に移っていくのを分かっていながらも傍にいたいと思ってしまう。その目で見続けてほしいと思ってしまう。

「じゃあ行こう」
「はい」

屋敷を出る。京の横を歩くというだけでドキドキして心配になる。

―私は隣にいていいのだろうか、と。

京はつばきに歩幅を合わせているようで、時間がゆっくりと流れているように思えた。
季節はちょうど3月だ。もう少しで桜が咲くころだろう。
「今日はお前に簪をプレゼントしたい」
「え?簪を?それは…―」
「それ以外にもほしいものがあれば言ってくれ」

拒否しようと思ったが、拒否権はないように思えた。つばきはありがとうございます、と言った。