「いや、それはいいんだが…欲しければ俺が買ってやる」
「…」
「そうだな、簪もそうだが、髪飾りもあった方がいいな。せっかく洋服も用意したのだから」
「必要ありません!私にそのようなものは…―」
「雪からは貰えるのに俺からはもらえないというのか?」
「それ、は…」
「じゃあ次の休みの日にでも買いに行こう。もっといいものを買ってやる」

つばきはゆらゆらと顔を横に振るが、拒否権はないようだった。
買われたはずなのに、どうしてここまでしてくれるのだろうか。衣食住が与えられ、夜伽と言ってもまだ一度しか夜をともにしていない。
しかも一緒に眠ることしかしていないのだ。“役目”を果たしていない。

「それにしても、お前は俺に笑った顔を見せないな」
「笑った…顔?」
「そうだ。女中たちと喋っているのを何度か見ているが、自然に笑って話しているように見える。が、俺には真逆だ。常に強張った顔をする。俺が怖いか?」

そんなことはありません、と強く否定した。
しかし、どうしてそのような些細なことを気にするのか分からない。
確かに雪やみこや、女中たちとは緊張せずに喋ることが出来てきた。が、逆に京とは距離が近づけば近づくほどにどう接していいのか分からない。それが表情に出ているのかもしれないと思った。