中院翔という男性は京と幼馴染らしい。ということは華族なのかもしれない。着ている着物も相当にいいものだと思った。
「つばきさんは…女中として雇われてるのかな?」
「…いえ、それは違います」
流石に夜伽として買われた、などと言えなかった。別に隠しているわけではないし、京に訊けばすぐに分かることだろう。気まずそうな表情をするつばきを見て翔は「簪が取れかけているよ?」と話題を変えた。
「あ!本当だ!やっぱり私が買ってあげますって!せっかくだし!つばきちゃんのちょっと壊れかけてるもん」
「いいの!そんなことにお金は使わないで」
お団子に纏めていた簪が取れかけていた。元々持っていた簪だったから、古いのだ。
それらで髪をまとめていたのだが、先端が折れかけている。
「そうだ、じゃあこれ使ってよ」
そう言って翔が懐から花の装飾がついた簪を取り出した。

「いえ!別にまだ使えますし…こんな高価なものは、」
「いいんだよ。ちょうど僕の妹に外出のついでに簪買ってきてって言われてほんの少し前に買ったものだから。新品だよ」
「だったら尚更いただけません」
「大丈夫だよ、帰りにもう一度店に寄ればいい」
そういうことじゃない、と思いながらも断るが翔にとってそれは大した金額の物ではないようだ。
「もらえるものは貰っておきましょう!!!ね?つばきちゃん」
「…うん」
押しに負け、つばきはそれを貰うことにした。