華に浪漫~夜伽のはずが溺愛されています~【完結】

みのりはその後、無言で京たちの横を通り過ぎ寝室を出ていった。

「みのり様、」
「いいんだ。あいつは昔からああいう性格で、でもこんなことで起き上がれなくなるほど精神面は弱くはない。まぁここ数日一緒にいたつばきならわかると思うが」
「はい、わかります」
その後、京とつばきは食堂へ向かった。
既に身支度を整えたみのりが先に朝食を食べていた。何と声を掛けていいのかはわからない。宗一郎が満面の笑みでみのりを見ていた。
宗一郎のその視線の送り方はやはり兄なのだと思った。

「家に戻ります。もうこの屋敷にいる理由がなくなったので」
澄ました顔でそう言うと、みのりはテキパキと持ってきていた荷物をまとめる。
「そうか。両親が心配しているであろうから、早く帰るんだ」
「分かっております!」

ふんっと顔を背け、玄関に向かう彼女に京とつばきが付いていく。
宗一郎が玄関で深々と頭を下げた。

「この度は、私の妹が大変ご迷惑をおかけして…」
「いいえ、それなりに騒がしかったのは確かですが俺にも落ち度はありましたから」
「ほら、みのりも挨拶を、」
宗一郎に促され、みのりは頭を下げた。
「ずっと京様が好きで私の結婚相手は京様だって思っていたの!でも…違ったみたい。私は誰よりも京様を愛している自信があったからこそ分かったの。京様はつばきさんのことを心底愛しているのだって。だからもう帰ります。悔しいので私はもっと素敵な旦那様を見つけることにいたします!!」
そう宣言するとみのりは勢いよく玄関を飛び出した。宗一郎は苦笑していたが、つばきと京は笑っていた。
宗一郎とみのりが帰宅した後、つばきは言った。

「よく考えてみれば、大したことではなかったのです」
「どういう意味だ?」
「だって、私が一番つらいことは…京様を失うことですから」
つばきはそっと瞼を閉じた。あの経験を経たからこそそう思えるのだ。
瞼の裏には京の顔が浮かぶ。


番外編①END