「そうだ、良かったら買い物にでも行きましょうよ!私、ちょっと日本橋の方に用事がありまして」
「え?いいの?」
「うーん、いいのかって聞かれると…うーん。多分みこさんには相当怒られそうですけど、バレなきゃ大丈夫ですよ!というか、つばきさんって外出出来ないんですか?」
それは…と言って唇を閉じる。
京にはそのような話はしていないが、おそらく許可はされていないだろう。
“逃げる”可能性があるからだ。もちろん今のつばきにはそのような気持ちはない。
「まだわからないのです。見張りって外にいるのでしょうか?」
「いませんよ!実は昨日はすっごい人数の怖い顔した男の人たちがいたんですけど、今日はいつもの警護に当たっている男性二人でした。でも、つばきさん別に逃げたりしませんよね?だったらいいんじゃないでしょうか?」
雪がそう言ってにんまりと笑うから、罪悪感が不思議と消えていくのだ。
悩んだ結果、女中の恰好をして外出することにした。
みこは夕方まで帰らないらしい。他の女中に見つからないよう、つばきはそっと家から出た。
「どうですか?ワクワクしません?」
「そうですね…でも、罪悪感も…」
「大丈夫ですよ~そうだ!つばきさんっていくつですか?同い年くらいかなって思ってたんですけど」
「今年二十歳になります。雪さんは?」
「私もです!やった~同い年だ~!仲良くしましょう!」
「ええ、もちろん」
綺麗な着物を着て闊歩する人たちの中を同じようにして歩いている自分に不思議な気持ちになった。
「つばきちゃんって呼ぼうかな~」
「いいですよ。じゃあ私も雪ちゃん雪ちゃんって呼ぶね」
「嬉しい~!」
他愛のない会話をしながら、ゆっくりと歩いた。
雪と友達のような距離感で接することが少し恥ずかしさもあるが嬉しかった。
「京様って弟がいるんですよ」
「そうなんですか?」
「そうですよ!顔は似ているんですけど、何ていうのかな。性格は真逆って感じです。たまーにですけど京様のお家に遊びに来ますよ」
へぇ、と相槌を打つ。
京に弟がいることは初耳だった。
「雪ちゃんは?兄弟いるの?」
「あ…いました、っていうのが正しいですかねぇ。姉がいました。数年前に亡くなっているんですけど…事故で」
「そうなんだ…ごめんね、変なこと聞いて」
「いえいえ、それよりも~この近くに可愛い髪飾りが売ってるんですよ!この間お給料が入ったばかりなので買っちゃおうかなって。つばきちゃんの分も一緒に買おうよ」
「いいよ!ダメだよ。自分の為に使って!大切なお金なんだから」
雪は明るい性格だが、姉を亡くしているということに胸が痛んだ。
それに加えて髪飾りを買ってくれるなどというのだ。何ていい子なんだろうと思っていると、突然体が強張る。
「どうかした?つばきちゃん」
「あ、…ううん、何でもない」
視界の端に清菜を捉えた。ちょうどすれ違う形で視界に捉えたのだ。清菜は気が付いていないようだった。
女中の恰好をしていたからか、それともこんなところにつばきがいるわけがないと思っているからなのかわからないが彼女は付き人と一緒に買い物に来ているようだったが気が付いていない。
確かにここから西園寺家はそう遠くはない。
清菜は一条京に買われたということは知っているのだろうか。それとも、まだ知らないのだろうか。
不安に駆られながら、雪には心配を掛けられないと無理に口角を上げた。
しばらくして、雪の“用事”を済ませた後、近くの店に入った。
ここからは私用になるのだが、これくらいはいいだろう。
キラキラと目を輝かせながら髪飾りを選ぶ雪。
どれがいいかな?と悩む彼女と一緒になって髪飾りを選んだ。どれもそれなりに値段のするものだった。
数十分ほど買い物を楽しんだ後、つばきと雪はお喋りをしながら屋敷に向かっていた。
「あれ?雪さん?」
と、背後から誰かに呼びかけられる。
振り返るとそこには男性が立っていた。着物姿の眼鏡をかけた男性は優し気な雰囲気を醸し出し、雪とつばきに目をやる。
つばきは会釈して初めましてと軽く挨拶をした。
整った顔立ちはつい京を連想していた。
「あぁ!お久しぶりです!あ、紹介しますね。こちらのべっぴんさんはつばきさんって言います。最近京様の屋敷に住み込みで働いています」
「そうなのですね。初めまして、僕は中院翔と言います。京君とは幼馴染なんですよ」
「初めまして。つばきと申します。最近京様のところでお世話になっております」
「そうなんだ。京君によろしくね。僕はこの近くに住んでいるんだ」
「そうなんですよ~たまーに中院さんも京様のお屋敷に遊びに来ますもんね」
「え?いいの?」
「うーん、いいのかって聞かれると…うーん。多分みこさんには相当怒られそうですけど、バレなきゃ大丈夫ですよ!というか、つばきさんって外出出来ないんですか?」
それは…と言って唇を閉じる。
京にはそのような話はしていないが、おそらく許可はされていないだろう。
“逃げる”可能性があるからだ。もちろん今のつばきにはそのような気持ちはない。
「まだわからないのです。見張りって外にいるのでしょうか?」
「いませんよ!実は昨日はすっごい人数の怖い顔した男の人たちがいたんですけど、今日はいつもの警護に当たっている男性二人でした。でも、つばきさん別に逃げたりしませんよね?だったらいいんじゃないでしょうか?」
雪がそう言ってにんまりと笑うから、罪悪感が不思議と消えていくのだ。
悩んだ結果、女中の恰好をして外出することにした。
みこは夕方まで帰らないらしい。他の女中に見つからないよう、つばきはそっと家から出た。
「どうですか?ワクワクしません?」
「そうですね…でも、罪悪感も…」
「大丈夫ですよ~そうだ!つばきさんっていくつですか?同い年くらいかなって思ってたんですけど」
「今年二十歳になります。雪さんは?」
「私もです!やった~同い年だ~!仲良くしましょう!」
「ええ、もちろん」
綺麗な着物を着て闊歩する人たちの中を同じようにして歩いている自分に不思議な気持ちになった。
「つばきちゃんって呼ぼうかな~」
「いいですよ。じゃあ私も雪ちゃん雪ちゃんって呼ぶね」
「嬉しい~!」
他愛のない会話をしながら、ゆっくりと歩いた。
雪と友達のような距離感で接することが少し恥ずかしさもあるが嬉しかった。
「京様って弟がいるんですよ」
「そうなんですか?」
「そうですよ!顔は似ているんですけど、何ていうのかな。性格は真逆って感じです。たまーにですけど京様のお家に遊びに来ますよ」
へぇ、と相槌を打つ。
京に弟がいることは初耳だった。
「雪ちゃんは?兄弟いるの?」
「あ…いました、っていうのが正しいですかねぇ。姉がいました。数年前に亡くなっているんですけど…事故で」
「そうなんだ…ごめんね、変なこと聞いて」
「いえいえ、それよりも~この近くに可愛い髪飾りが売ってるんですよ!この間お給料が入ったばかりなので買っちゃおうかなって。つばきちゃんの分も一緒に買おうよ」
「いいよ!ダメだよ。自分の為に使って!大切なお金なんだから」
雪は明るい性格だが、姉を亡くしているということに胸が痛んだ。
それに加えて髪飾りを買ってくれるなどというのだ。何ていい子なんだろうと思っていると、突然体が強張る。
「どうかした?つばきちゃん」
「あ、…ううん、何でもない」
視界の端に清菜を捉えた。ちょうどすれ違う形で視界に捉えたのだ。清菜は気が付いていないようだった。
女中の恰好をしていたからか、それともこんなところにつばきがいるわけがないと思っているからなのかわからないが彼女は付き人と一緒に買い物に来ているようだったが気が付いていない。
確かにここから西園寺家はそう遠くはない。
清菜は一条京に買われたということは知っているのだろうか。それとも、まだ知らないのだろうか。
不安に駆られながら、雪には心配を掛けられないと無理に口角を上げた。
しばらくして、雪の“用事”を済ませた後、近くの店に入った。
ここからは私用になるのだが、これくらいはいいだろう。
キラキラと目を輝かせながら髪飾りを選ぶ雪。
どれがいいかな?と悩む彼女と一緒になって髪飾りを選んだ。どれもそれなりに値段のするものだった。
数十分ほど買い物を楽しんだ後、つばきと雪はお喋りをしながら屋敷に向かっていた。
「あれ?雪さん?」
と、背後から誰かに呼びかけられる。
振り返るとそこには男性が立っていた。着物姿の眼鏡をかけた男性は優し気な雰囲気を醸し出し、雪とつばきに目をやる。
つばきは会釈して初めましてと軽く挨拶をした。
整った顔立ちはつい京を連想していた。
「あぁ!お久しぶりです!あ、紹介しますね。こちらのべっぴんさんはつばきさんって言います。最近京様の屋敷に住み込みで働いています」
「そうなのですね。初めまして、僕は中院翔と言います。京君とは幼馴染なんですよ」
「初めまして。つばきと申します。最近京様のところでお世話になっております」
「そうなんだ。京君によろしくね。僕はこの近くに住んでいるんだ」
「そうなんですよ~たまーに中院さんも京様のお屋敷に遊びに来ますもんね」