「京…っ様、」
頭の中がボーっとして足元がふらつく。もちろん京がつばきを強く抱きしめているから倒れる心配はないのだが、誰かが厨房に入ってくるのではという心配の方が大きい。
と、厨房のドアが勢いよく開いた。
「…な、な、なにしているのですか!!!」
「…っ…ちょ、京様っ…」

ようやく京がつばきを抱きしめる力を緩めたのはこの場にみのりがやってきたからだ。
京が溜息を溢してみのりに目をやる。
みのりは憤懣やるかたない様子だった。こぶしを作り、地団太を踏むみのりは実年齢よりも幼いと思った。

「何であなたと一緒に…、そ、そんなことをっ…!」
「それは…その、」
「当たり前だろう、夫婦になるんだ。このくらい普通だ」

みのりは顔を真っ赤にして泣き出してしまった。よほどショックだったのだろう、そんな彼女に何と声を掛けたらいいのか分からない。
しかしすぐに宗一郎が走ってまた厨房に戻ってきた。
「どうしました」
「だって、だって!!二人が…ぁ…うわああん、酷い酷いわ!まだ結婚していないのに!接吻など破廉恥ですわ!」

宗一郎がいる前でオブラートに包むことなく正確に口にしてしまうみのりに自然につばきの頬が強張る。