「そうか。ならば…俺は頼りないか」
「…いいえ!いつも頼りにしております」

京が何を言いたいのか分からない。廊下を歩く足音がこちらに近づいているような気がした。何とか京の腕の中から抜け出そうとするのだが、そうすればするほど京は力を強めていく。
一瞬、抱きしめる力を緩めた。その隙に…と身体を離そうとした。

だが、それは京にも考えがありわざと緩めたのだ。

「え、…あ、お待ちくださ…っ…ぅ、んっ…」

京が顔を近づけ、キスをする。それも最初から深いものであり、つばきの背中が反るほど勢いよくキスをする。片手で耳たぶを撫で、つばきの弱点だというのを分かっていてしているのだ。ぼんやりとする脳内で彼は何と意地悪なのだろうと思った。

どんどん近づく足音はバタバタとわざと音を立てているのではと思うほど大きく聞こえる。それが厨房の前で止まったのをつばきだけではなく京も分かっていただろう。
それでも京はキスを止めることはしない。