「好きな食べ物は何ですか?」
「えっと…そうですね、お米ですかね」
「へぇ、お米。たくさん食べる女性はいいですね。もっと食べた方がいいですよ、そんな細い腕では色々と大変でしょう?」
「そうでもないですよ!結構体力がつきましたし」
「そうですか、確かに…あの騒動は僕の耳にも入りましたが…本当に尊敬します。あなたのような強い女性が一条家に嫁ぐのですから一条家もしばらくは安泰でしょう」
「いえいえ!そんなことは…―!」
「謙遜なさらずに」

宗一郎は随分と自分を評価しているようだと思った。華族でもなく、西園寺家からはいないものとして扱われていたというのに。

「このお屋敷には慣れましたか?」
「はい、とても良くしてもらっているので。何か少しでも京様たちの役に立ちたくて女中の仕事を手伝わせてもらっているのです」
「そういうことですか。あ、水がかかってしまいましたね。申し訳ありません、すぐに着替えてきた方が」
「大丈夫ですよ、このくらい」

水しぶきが飛び、つばきの着物にかかってしまった。つばきとしては前掛けのお陰かそこまで着物に被害はなかったのだが、宗一郎がすぐに着替えた方がいいという。
と、その時。
「つばき、」
背後から声がした。


宗一郎とつばきの視線がほぼ一緒に背後に向かう。
そこには京が立っていたが、何故か怪訝そうだ。

「あぁ!お久しぶりです、京さん」
「お久しぶりです。宗一郎さん、どうしてここに?」
「みのりを迎えに来たのですが、どうしても帰らないというので僕が監視役ということでそれまでこのお屋敷に泊まろうかと」
「そうですか。別に構いませんよ、ただ」
京の視線がつばきに向く。つばきが首を傾げる。

「彼女は私の妻ですので、そこはしっかりと線引きをお願いしたい」
「ええ、もちろんですよ。そこは十分理解しています。こんな素敵な女性を妻に出来るなんて流石京さんだと思っていたんですよ。あ、それからここにいる間、つばきさんは僕を兄だと思って接してくれるようなので何の心配もありませんよ。つばきさん、兄弟はいないようなので」
「…いや、何を言っているのかわからないのですが」

ははは、と笑って「そのままの意味ですよ」というがつばきにもその意味は不明だ。

「つばきさん、着替えてきてください。後は僕がやっておきますから」
「いいですって!宗一郎様」
また台所に向かう宗一郎を制するようにつばきもすかさず元の位置に戻ろうとする。
必然的に宗一郎に体が触れるほど距離が近くなるが、京がつばきの肩を引き寄せる。
「京様…?」