「…っ…ぅ、ふ…ん」
足の先までとろけるような甘い痺れを感じながら、彼に応えるように舌を絡ませた。
キスの仕方はこれで正解なのだろうか、京に不快な思いをさせていないだろうか、などと考えるが主導権は彼が握っていた。
呼吸が乱れ、苦しくなってくると京がようやくつばきから顔を離した。
どのように“夜伽”として彼に満足してもらえるのか分からないままでのキス。
涙で滲む瞳を彼に向けると、覗き込むようにつばきを見る。
息を切らしながら視線を絡めると腹部が熱くなっていく。
「悪い、やり過ぎた」
「いえ、…そのようには感じておりません」

すると、京は小さく息を吐いて「そういういい方は困る」と言った。
意味が分からずに、キョトンとしているとようやく京がつばきから離れる。
全身から京の重みが消えていく。
ほんの少し寂しさを感じながら既にここから逃げようという気持ちが消えていることに複雑な心境を抱えたまま灯りが消えていく。

京のおやすみという言葉に「おやすみなさい」と返す。
まるで、恋人同士のような会話に心拍数が上昇した。そのうちつばきは眠っていた。

―翌朝
起きると既に京の姿はなかった。
まだ6時だというのに、もう仕事へ行ったのだろうかと思うと体が心配になった。
京の寝室から出ると、顔を洗い身なりを整え、食堂に向かった。
みこがいるかと思ったがそこには雪がいた。
「あぁ!」とまるで親しい友人を発見したかのように目を輝かせつばきに近づいてきた。

「つばきさん!おはようございます!」
「お、おはようございます。あの…何か手伝いを…」
「いえいえ!みこさんからつばきさんに掃除等は手伝わせるなときつく言いつけられておりますので!」
くりっとした目が可愛らしい。
妹のように懐いてくる雪につばきはどう接していいのかわからない。
一人っ子で友人もいなかった。加えて、女中たちとの距離感も掴めない。
女中頭のみこは年齢もそうだが女中頭としての立場をしっかり示しているから逆に接しやすいのだが、それ以外の人とはどうしていいのか分からない。
しかし、唯一年齢の近そうな雪だったら仲良くなれそうだと思ったのだ。
「つばきさん、どうだったんですか?昨夜は」
「えっ…」
「だって~昨日初仕事だったんですよね?ね?」
「え、えっと…それは、」
「京様素敵ですよねぇ。私たちのような使用人にも優しいんですよ!お給料だって相当貰っているし、雰囲気は少し怖いというか冷たい感じはありますけどとってもお優しいのです」
「わかります。京様にはとても感謝しているので」
雪はうんうんと頷き、満面の笑みを向けた。
まるで向日葵のように明るくて可愛らしい彼女にドキッとした。距離が近いのだ。

「女中たちの間でも京様は人気なんですよ。だから夜伽とはいえ…一緒に寝られるなんて~羨ましい!」
「…えっと、ごめんなさい。もしかして雪さんは…京様のこと、」
しかし、雪は顔を顰めた。そして、ぶんぶんと勢いよく首を縦に振る。
「まさか!京様をそのような目で見たことはありませんよ。何というか、私にとっては…神のような…存在です!」
「そ、そうなんですね…」

若干引きつつも、つばきは雪と仲良くなりたいと思っていた。
誰にも壁を作らずに天真爛漫という言葉が良く似合うウェーブかかったボブ髪の彼女が妹のようで可愛いのだ。