“お嬢様”という言葉が似合うみのりは装いや雰囲気で華族出身であることは直ぐに分かったのだが、どこか幼さを感じさせる言動は箱入り娘として育てられてきたからなのかもしれない。

つばきとしてはまだ少女であるみのりに嫉妬をするのは違うと思いながらも少しだけ心に靄がかかる。

「私、お茶用意しますね」
「助かります」

みこにそういって急ぎ足で厨房に向かった。みこもみこで仕事が多いのだ。
女中頭は女中たちの管理も任されているため、仕事の範囲が広い。

お茶を入れて京の部屋の前で声を掛ける。
ドアをノックしてから入るとソファに座る京の隣で甘えるようにもたれかかるみのりを見て一瞬たじろいてしまう。

「だから、離れろと言っているだろ」

京が無理やりみのりから体を離すもののすぐにまた体を密着させるみのりに何度も溜息を溢している。

「あの…お茶を、」
「ありがとう」
京はつばきに手招きをする。つばきはテーブルの上にお茶を置くと京に体の向きを変える。

「みのり、紹介する。彼女はつばきといって俺の婚約者だ」
「……はい?」
うっとりした目の色が消え、瞬きを繰り返しつばきを凝視するみのりは「何を冗談を…」と言った。

「本当だ。彼女が俺の婚約者だ」
「う、…嘘!だって…この人女中さんでしょう?わたくしは今日、どんな人が婚約者なのか見に来たのですよ!あ、もちろん京様にお会いするのが一番ですけど…」
つばきは信じられないという目を向けてくるみのりに挨拶をする。