あれから半年が経過した。
奇跡的に命が助かったとはいえ以前と同じように生活できるまでに三か月はかかった。とはいえ、京の献身的な看病により医者が当初言っていた期間よりもずっと早く動けるようになった。

そしてこの事件はそれなりに話題になった。一条家の人たちも事件直後京の屋敷へ来るほどに(京とは仲が良くないのに)一大事だったのだ。
雪は警察に連行されたが被害者のつばき自身が減刑を求めたことや未成年であることなどを考慮して大幅に減刑された。
雪が罪を償って自由に会えるようになる時、つばきは一番に会いに行こうと思っていた。

「半年後、ようやく一条家の一員になる」
「…そう、ですね」

自分の部屋はあるものの、既に夜はともに過ごすということが習慣化しているため今夜も京の寝室にいる。
静まり返る寝室内で京に肩を抱かれ、つばきは男らしい筋肉質な胸板に顔を埋める。

「なんだ、不安なのか。正式に両親が認めたんだ」
「いえ!まさか認めてもらえるなど思ってもいませんでしたので。不安はもうありません」

一条家はつばきが身を挺して京を守ったという事実を知り、結婚を認めたのだ。あっという間に結婚への準備が進められた。

とはいえ、急に華族である一条家に嫁ぐことが決まると嬉しさと同じくらいに不安もあるのだ。不安はないとは言ったもののつばきの表情を見れば心の内を察することは出来るのだろう。
京はもう一度大丈夫だと言いながら、つばきを抱きしめる。

「そういえば…」

つばきは思い出したように口を開く。
「花梨様から渡されたあの指輪は…」
以前行われたパーティーで花梨から京へ渡されたあの指輪が今になって気になっていた。
あのパーティーの後に京を緋色の目で見たことで指輪のモヤモヤなど忘れてしまっていた。
それほどまでに衝撃的だったのだ。
全てが解決した今、つばきはどうでもいいことが気になっていた。

「指輪?あぁ、あれは俺の両親が花梨へ渡したものだ。将来結婚すると勝手に親同士で決めていたから。あの指輪は一条家の長男の妻に受け継がれてきたもので、花梨があの場にあれを持ってきたのはもう自分は将来の花嫁ではないことを悟っていたのだろう」
「…そういう意味だったのですね。なんだ…てっきり昔京様が花梨様へプレゼントしたものかと」
「それは一度もない。あの指輪はつばきがもらうものだ。それとは別に指輪を用意する予定ではあるが」