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どこからか“つばき”と名を呼ぶ声が聞こえる。
真っ暗な場所で光を求めるようにつばきは必死に声を出す。ここにいる、と。
心細くてどうにかなりそうだった。
声が掠れ、力付きでその場に足を抱えるようにして座り込んだその時、誰かに強く手を握られた感覚がした。
それは、温かく力強くつばきを包み込む。一人ではないのだとそう思った時、視界全体に光が差し込んだ。

「つばきっ…―」
「つばきさん!」
薄っすらと瞼を開けるとそこにはつばきの顔を覗き込む京とみこ、翔に女中たちの姿があった。

「私…生きてる?」
「良かった、つばき…俺のことはわかるか」
「ええ、もちろんでございます。それからみこさんも…あれ?翔様?」
「つばきちゃん、良かった。騒ぎがあったと聞き昨日も様子を見に来ていたんだよ。3日も眠ったままだったんだから」
「そうなのですね…」
つばきの手は京のそれにしっかりと重なっていた。
夢の中でずっとつばきの名前を呼んでいたのは京だったのだと知る。