「大丈夫よ。すぐに医者が来る。あなたはずっとこの屋敷で京様と過ごすのでしょう?」
うん、と頷くのが精一杯だった。
そしてみこは静かに続けた。

「雪さん、あなたが…あの一条家の使用人として働いていた女性の妹だというのは京様は最初から知っておられました」
「…え、だって…、」

雪が顔を上げる。
その目は真っ赤だった。ようやく成し遂げた復讐だというのにその顔には後悔しか浮かんでいない。

「あぁ、知っていた。だから雇ったんだ」
「っ……そんな、」
「雪さんのお姉さまは聞いた話によるととても器用でお仕事ができる方だったようね。でも使用人たちの間ではそれをよく思わない人たちがいた。そして陰湿ないじめが始まった。でも京様はその時には屋敷を出ておられました。元々京様は一条家の人たちとは仲がよろしくありませんでしたから。だから本来であればほぼ関りのない人物だったのです。それでも一条家内で自殺者が出たなど一大事であります。だからその調査をするよう命じたのも京様ですよ。一条家の人たちはそれを隠そうとしたのに…」
「…う、そ!嘘よ!京様だってお姉さまを追い込んだ一人だったはず!」
「もしそうであれば、その妹を雇うなどしますか?京様は全て知った上であなたを雇ったのです。あなたが素性を隠すというのであれば…知らない振りをししようと言ったのも京様です。私はあなたを雇うことも反対しました。しかし京様は雇うと言ってきかなかった」
「…そんな…」

雪は子供のように大声を上げて泣き出した。

つばきはそっと目を開ける。