「大丈夫か、血が出ているが致命傷ではないな」
「はい…大丈夫です。それより、」
つばきが雪へ目をやる。雪は泣きながら這いつくばるようにして押し入れの方へ近づく。
逃げようとしているのだと思った。しかし、違った。
泣き声が止むと雪はすっと立ち上がり、押入れを開ける。
「…っ、つばき、逃げろ、」
「京様っ…」
京は無理やりつばきを立たせ、襖の方へつばきの体を投げるようにして移動させた。京だけはその場に留まる。
雪はゆっくりと振り返る。その手にはどういうわけか包丁があった。
先ほど京が奪ったもの以外に用意していたものが存在したのだ。
雪は奪われたりして計画が変更になったことを考え事前にいくつかの包丁をこの部屋に隠していたのだ。
「つばきっ…早く!」
しかし、雪の目はもう京しか見ていない。京はつばきだけでも先にこの部屋から逃げ出すようにと思ったのだろう。力だけならば京の方が有利だが、雪を掴まえないことにはまたどこかに殺傷能力の高いものを隠している可能性がある。
今はそれを探している時間などない。
「まぁいいや。京様だけでも…」
その言葉を聞いた瞬間つばきは立ち上がる。勢いをつけ京へ向かう雪の元へ走った。
せっかく京が逃げるよう指示をしてくれたというのにそれを無駄にしたのは理由がある。
―京は自分は刺されてもいいという覚悟の顔をしていたからだ。
「雪ちゃんっ…」
つばきは最後に雪の名前を呼び、京の前に立つ。
それは一瞬だった。
息苦しくなり、腹部がどんどん熱を持つ。
刺されていることには数秒気がつかなかった。足元にぽたぽたと生暖かい血液が落ちていく感覚に刺されてしまったのだと思った。だが、後悔はなかった。
京が死なずに済むのならばと思っていたからだ。
あの目で見た未来は起こらなかった。いや、起こったのだが最悪の事態は回避できたのだ。
雪は大きな目を更に大きくさせ、「なんで?」と聞いた。その手は微かに震えていた。
知っていたのだ、今も…彼女は一瞬ためらった。
本当は誰も殺したくなどなかったのではないか、とそう思うのだ。
倒れ込むつばきを抱きかかえるようにすると京は大声で「医者を…っ」と叫ぶ。
この騒ぎで女中たちが一斉にこちらへ向かってくる。
「つばき、つばき…っ、何故、」
「京様、良かった…、無事で、」
「しゃべるな。今医者を呼ぶ、だから心配ない。大丈夫だ。…何故、逃げなかった」
京はそう言いながらもつばきの手を握り、その目からは涙が溢れていた。
雪は無言でその場に座り込む。そして目から大粒の涙を溢していた。
「京様っ…!何事ですかっ…」
一番に駆け付けたのはみこだった。血まみれのつばきを見てみこは一瞬ぶるると身体をふるわせたがすぐに他の女中に医者と止血するためのタオルを持ってくるように伝えた。
そしてみこは雪から包丁を奪うと、「他にはないわね」と訊く。
もう誰も襲うつもりはないようなのは誰がみても明らかだった。
そしてつばきに近づくと、言った。
「はい…大丈夫です。それより、」
つばきが雪へ目をやる。雪は泣きながら這いつくばるようにして押し入れの方へ近づく。
逃げようとしているのだと思った。しかし、違った。
泣き声が止むと雪はすっと立ち上がり、押入れを開ける。
「…っ、つばき、逃げろ、」
「京様っ…」
京は無理やりつばきを立たせ、襖の方へつばきの体を投げるようにして移動させた。京だけはその場に留まる。
雪はゆっくりと振り返る。その手にはどういうわけか包丁があった。
先ほど京が奪ったもの以外に用意していたものが存在したのだ。
雪は奪われたりして計画が変更になったことを考え事前にいくつかの包丁をこの部屋に隠していたのだ。
「つばきっ…早く!」
しかし、雪の目はもう京しか見ていない。京はつばきだけでも先にこの部屋から逃げ出すようにと思ったのだろう。力だけならば京の方が有利だが、雪を掴まえないことにはまたどこかに殺傷能力の高いものを隠している可能性がある。
今はそれを探している時間などない。
「まぁいいや。京様だけでも…」
その言葉を聞いた瞬間つばきは立ち上がる。勢いをつけ京へ向かう雪の元へ走った。
せっかく京が逃げるよう指示をしてくれたというのにそれを無駄にしたのは理由がある。
―京は自分は刺されてもいいという覚悟の顔をしていたからだ。
「雪ちゃんっ…」
つばきは最後に雪の名前を呼び、京の前に立つ。
それは一瞬だった。
息苦しくなり、腹部がどんどん熱を持つ。
刺されていることには数秒気がつかなかった。足元にぽたぽたと生暖かい血液が落ちていく感覚に刺されてしまったのだと思った。だが、後悔はなかった。
京が死なずに済むのならばと思っていたからだ。
あの目で見た未来は起こらなかった。いや、起こったのだが最悪の事態は回避できたのだ。
雪は大きな目を更に大きくさせ、「なんで?」と聞いた。その手は微かに震えていた。
知っていたのだ、今も…彼女は一瞬ためらった。
本当は誰も殺したくなどなかったのではないか、とそう思うのだ。
倒れ込むつばきを抱きかかえるようにすると京は大声で「医者を…っ」と叫ぶ。
この騒ぎで女中たちが一斉にこちらへ向かってくる。
「つばき、つばき…っ、何故、」
「京様、良かった…、無事で、」
「しゃべるな。今医者を呼ぶ、だから心配ない。大丈夫だ。…何故、逃げなかった」
京はそう言いながらもつばきの手を握り、その目からは涙が溢れていた。
雪は無言でその場に座り込む。そして目から大粒の涙を溢していた。
「京様っ…!何事ですかっ…」
一番に駆け付けたのはみこだった。血まみれのつばきを見てみこは一瞬ぶるると身体をふるわせたがすぐに他の女中に医者と止血するためのタオルを持ってくるように伝えた。
そしてみこは雪から包丁を奪うと、「他にはないわね」と訊く。
もう誰も襲うつもりはないようなのは誰がみても明らかだった。
そしてつばきに近づくと、言った。